なんと、杉内が投じたボールは、ポーンと宙高く上がったあと、ゆっくり放物線を描きながら、ホームベースに向かってくるではないか。

 最初は呆然と超スローボールの軌道を目で追っていた炭谷だったが、慌ててステップを踏むと、強引に打ちにいった。

「(杉内が)マウンドにつまずいて倒れたのかと思った」(炭谷)。失投ならもっけの幸いと一発を狙ったが、あまりの遅さにタイミングが合わず、力ない中飛でスリーアウトチェンジになった。

 まさかの魔球で西武の反撃を断ち切った杉内だったが、「僕の勘違いです。サイン違いです。真っすぐを投げようと思った」と説明した。

 実は、捕手・阿部慎之助のサインは、一塁へのけん制球だった。投球動作に入ったときに自らの勘違いに気づいた杉内は「直球を投げたら捕れない」と咄嗟の判断で、ウエストするつもりでスローボールを投げたというしだい。

 阿部も「まさか銀ちゃんが打つとはね」と結果オーライに苦笑い。7回1失点でマウンドを降りた杉内は、交流戦歴代最多の通算25勝目を手にした。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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