(c)2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited 新宿シネマカリテほか全国順次公開中
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 オーストラリアへの留学経験を持つ上智大学の鈴木雄雅教授に話を訊いた。「(息子の犯行を報じる)テレビ音声を耳にしながらたばこをくゆらせる母親が印象的だった。本人を取り巻く人の存在というか、周囲の愛と理解があれば彼を救えたのではないか。この映画が投げかけているのは社会の病理。周りからも母からも見放され、彼は負の心になってしまった。犯人のマーティンがいなくなっても社会の負は連続する。根本的な問題を解決しないとまた起こる」

 乱射する映像はない。銃声のみで映画は終わる。だからこそ負の往還を観る者に予感させる。

 鈴木教授によると、海に囲まれたオーストラリアでサーファーは男性にとって勲章なのだそうだ。英雄であり、社会の規範にもなっている。マーティンは母親にサーフボードを買ってもらえなかった。「お前には向いていない」と。憧れのサーファーに「のろま」とさげすまれ、海に入っても波にはじき飛ばされる。

 主人公の美しい金髪が荒波に揉まれ、儚さを増していた。ケイレブ・ランドリー・ジョーンズはオーストラリア史上最悪の犯罪者を演じてカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞した。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中

週刊朝日  2022年5月6・13日合併号

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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