俳句もまず季語を見つけ、歳時記を開き、季語の説明などを読み、さらに過去の人がその季語を使ってどんな俳句を作ったのかを見て……という流れになると思うのですが、まさに同じ使い方をしていました。たとえば、一つの椅子に目を向け、「物語をつくるとしたらどのようなものになるだろう」というのをデザイナーのプロフィルなどから連想していました。単純に、読んでいて面白い本でもあるんです。

——『ストーリーのある50の名作椅子案内』には、それぞれの椅子が辿ってきた歴史、時代背景、素材の変遷などがさまざまな角度から記されている。脚本を書くにあたり、どのように物語を着想していったのか。

又吉:純粋に「魅力的だな」と思う椅子を選びたい、という思いがまずありました。全8話ですが、候補の段階では倍くらいの名前が挙がっていたと思います。それから実際に椅子が置いてある都内の店を訪れ、2日間くらいかけて選ばせてもらいました。

 物語をつくるうえでは、最初から「女性」を意識していたわけではなく、椅子の歴史や個性に目を向け、そこから発想できることを手がかりに物語をつくり、するとキャラクターが浮かび上がってきて、最終的にさまざまな要素をすり合わせていく、というつくり方をしていました。

——小説を書くときと、オリジナル脚本を書くときでは、違う筋肉を使っているような感覚があったという。

■脚本とコントの共通点

又吉:書くときのモードが少し違ったかもしれないですね。広い目で見ると、シナリオは戯曲に近い部分があるので、考え方や発想はコントと共通する部分はあるのかな、と感じました。

 八つの物語を生み出さなければいけないというところに最も苦心しました。ひたすら書いて提出して、微調整をして……を繰り返しましたね。

 実際にできあがった映像を見ると、いい意味で、完全に自分の想像通りにはなっていなかった。それは、言葉や声といった“人の体”を介しているものだから。自分の想定を超えるようなシーンがいくつもあったので、面白い経験になったと感じています。

(構成/ライター・古谷ゆう子)

AERA 2022年5月2-9日合併号

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