多くの人がチャレンジしているジャンルに挑むのは、ある意味怖いことだと思うんです。それでも、「自分ならこうするだろう」と発想を広げ、独自性を持たせようと考える対象になっている。生活に近いものではあるけれど、同時に想像力のきっかけにもなるものなのかな。そう考えていくと、“憧れ”に近い部分もあります。
■書く時も考える時も
——かつては座れるというだけで、少しうれしかった。いまは椅子との関係も進化している。
又吉:座って行う仕事も多いですし、椅子の形によってある程度はこちらの姿勢が強制されるというか、「この椅子はこう座る」というスタイルが決まっているような気がします。小さい椅子なら多少バランスを取ろうとしますし、大きい椅子であればゆったりともたれて座るでしょう。
体勢によって感じ方も違うし、考え方も変わってくる。本の読み方も違ってくると思います。どこで本を読むかという場所の問題もありますが、「椅子」も大切な要素で、文章を書くにしても、コントを考えるにしても、椅子が自分に与える影響は少なからずあると思います。
「どこで文章を書こうかな」と、考えるときは、喫茶店が選択肢に入ることもあれば、書斎で書くこともあります。一言に「椅子」と言っても、ビジネスチェアもあれば、ラウンジチェアもダイニングチェアもあるので、座る椅子によって、書くものの方向性が変わってくることもあるのかもしれません。
考えごとをする時も、ずっと同じ椅子に座っているとしんどいので、その時に「座りたい」と感じた椅子に座っていることが多いですね。
■歳時記のように使った
──脚本を手掛けた「WOWOWオリジナルドラマ 椅子」では、「椅子と女性の人生」をテーマに物語を生み出した。1話につき1脚の実在する著名な椅子が登場する。そこでも、『ストーリーのある50の名作椅子案内』を参考にした。
又吉:俳句における歳時記のような使い方をしていたなと思います。さまざまな椅子が紹介されているだけでなく、手がけたデザイナーの歴史も書かれていて、それらを読んでいくと、「こんな物語かな」とアイデアが思い浮かぶようになる。