映画「N号棟」は、29日から新宿ピカデリーほか全国公開 (c)「N号棟」製作委員会
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 スパルタ稽古で知られる劇団「第三舞台」から俳優のキャリアをスタートさせた筒井真理子さん。「芝居にのめり込むことで得られる快感があり、「自分はその中毒なのかもしれない」と言って、優雅に微笑んだ。

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前編/稽古よりも「同じキャラ」演じるのがつらい 筒井真理子の劇団時代】より続く

 2008年に、舞台で、性同一性障害の役を演じたことがある。最初に、「お蕎麦屋さんの長女です」と言われてプロットを読んだら、「蕎麦屋の父、長男、次男、三男」とあり、「長女」の文字はどこにもなかった。

「演出家の方に伺ったら、『筒井さんは長男の役です』と言われて、『性同一性障害だからそうか』と思ったものの、そういう方たちの本当の気持ちがわからない限りは演じるのは失礼かなと思い、『無理です』とお伝えしました。『大丈夫だから』と周りに説得されて、頑張って心理学の勉強もしたんですが、その役は本当に手ごわかった。でも、初演を終わってしばらくして、ふと、『今だったらあのセリフの意味が理解できるかもしれない』と思ったことがあったんです。そうしたら、たまたま再演が決まって。あらためて、性同一性障害の方の取材をさせていただくことにしました」

 今でこそ、LGBTQという言葉も浸透し、性的マイノリティーに対する理解も、徐々にではあるが深まってきている。が、当時は「親が理解してくれなくて」「職場では怖くてカミングアウトできない」という悩みを打ち明ける人も多かった。

「自分の脳みそで考えていることなんてとてもちっぽけだけれど、長男の役を演じながら、『ちょっと何かわかった気がする』って思った瞬間があった。そのとき、脳みそがメリッと小さな音を立てて、1ミリだけ大きくなったような感じがしたんです。劇団時代と同じように自分を追い込んで、悩んで、出口が見えなくて真っ暗だったのが、ほんの少し、光をつかんだような。どれだけ本を読んで知見を広げても、自分とは全然違う考え方をする人なんていくらでもいるわけで。でも役者をやっていると、ほんの少しだけでも、『わかる』って思えるような体験ができるんです」

 頬を紅潮させながらそう話したあと、「イギリスで演劇は、“生きる練習”と呼ばれて、授業の選択科目になっていると聞いたことがあります」と続けた。

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