飛行機に乗って国をまたいでいるまさにこの瞬間が、自分にとってのその「節目」なんだろうな、とぼんやり感じた。海外に引っ越すんだから、新生活が始まるんだから、門出にちがいない。十四歳で迎える人生の区切り、のはず。そのはずなのに、おめでたい気持ちがいまいちしない。
あと一年でつかめる「JK」という輝かしい称号を捨てて。居心地の良い友だちや部活動の輪を抜けて。
自分は一体、どこへ向かっているんだろう。
この無機質な空間に閉じ込められた八時間が終わる。そうしたら、自分がいるのは生まれ育った日本でも、どこの土地や海の上かわからない雲の合間でもない。
そこはもう、インドだ。
■不意に浮かんできた「カースト」
飛行機の振動がおさまり、シートベルト着用サインが消えると、それを合図にまわりが一斉に立ち上がって荷物棚からかばんを下ろし始めた。自分も置いていかれないようにと必死におとなたちのまねをしながら頭の上に手を伸ばすものの、なかなかスーツケースをつかめそうにない。
見かねたCAさんが、代わりに取ってくれた。ドスンと音を立てて床に置かれたスーツケースを見ると、わたしの荷物だけHEAVYと書かれたラベルがついている。まるで、日本への未練をパンパンに詰め込んできたみたいだ。CAさんも一瞬、その重さにひるんだようだった。
ターミナルビル内に入っても目につくのはインド人(と思われる)空港スタッフばかりだ。
ここでは、乗客に比べてスタッフの割合が日本の空港よりも圧倒的に高く、日本の十倍もある人口の差は、この国に足を一歩踏み入れた瞬間から明らかだった。おそろいの制服を身にまとったスタッフが数人で群れて清掃をしていたり、電動カートにまたがっていたり、はたまた床に座り込んだりしている。
なんで座ってるの? と突っ込みたくなる気持ちを抑えながらよく見てみると、むらさきの制服を着た彼らとは別に、ワイシャツを着て首からIDを下げたスタッフもいる。制服のスタッフたちは、みなうつむきがちで床のあたりばかりに視線があるのに対して、ワイシャツのスタッフたちは、胸を張り英語で外国人の客と会話をしている。