弁護士としての抱負を語る上治さん(撮影・高橋奈緒〈写真映像部〉)
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 昨年1月に4度目の挑戦で司法試験に合格した元朝日新聞記者の上治信悟さん(64)が今春、弁護士になった。50代で法律の勉強を始め、9年かかって難関試験をパスした上治さんを待っていたのは、厳しい就職活動と知力と体力を振り絞る「卒業試験」だった。昨年7月9日号で紹介した司法試験合格記に続き、新人弁護士として踏み出すまでの歩みをつづってもらった。

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 私は昨年3月30日、1980年以来40年以上勤めた朝日新聞社を辞め、翌日から74期の司法修習生になった。修習を始める前から気になっていたのは、弁護士事務所に就職できるかということと、修習の終わりに実施され卒業試験にあたる国家試験「司法修習生考試」(通称「二回試験」)に合格できるか、だった。

 60歳を超え、若い人と一緒に就職活動をしなければならなかった。一方、司法試験に合格したとはいえ、成績は1450人中1424位とぎりぎりだった。仕事先も見つからず、修習にもついていけずに二回試験に落第して弁護士になれないのではないか。そんな不安で合格の喜びにゆっくり浸る時間はなかった。

 修習は埼玉県和光市にある司法研修所(研修所)での修習と裁判所、検察庁、弁護士事務所での分野別実務修習(実務修習)、選択型実務修習に分かれる。

 私が属した74期A班はまず研修所で約1カ月間、導入修習をした。その後、指定の修習地で約7カ月間、実務修習をした後、研修所に戻って、二回試験のリハーサルのような論文試験や模擬裁判などで構成される約1カ月半の集合修習を受けた(新型コロナウイルスのため、研修所での修習は原則リモートになった)。

 集合修習が終わった後は、実務修習地などで自分が選んだテーマを学ぶ約1カ月半の選択型実務修習に進み、最後に二回試験を受けた。私は東京が実務修習地となり、東京地検、東京地裁民事部、都内の弁護士事務所、東京地裁刑事部の順に実務修習をした。

 選択型実務修習では実務修習の弁護士事務所をホームグラウンドとしながら、東京地裁民事部で再び修習をした。

 実務修習と選択型実務修習では被疑者の取り調べをしたり、事件の記録を読んで有罪無罪、勝訴敗訴を検討するレポートや起訴状を起案したり、事件を傍聴したりした。

 起案は何日もかかり、夜遅くまで残業することもあったが、指導役の裁判官や検察官、弁護士らから生の事件について指導を受け議論することは楽しく、実務家に近づいているというワクワクした気分になった。

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