改めて、「老害」を広辞苑で調べてみると、

「(老人による害の意)硬直した考え方の高齢者が指導的立場を占め、組織の活力が失われること」

 とあります。つまり、老害とは組織の中という、かなり限定されたところでの出来事のようです。低成長の時代に入り、日本の企業の活力低下が危惧されるなかで生まれてきた言葉ではないでしょうか。そんな言葉が老人全般に拡大して使われてしまっているように思います。そうなってしまうのは、老化に対するマイナスイメージが世の中に定着してしまっているからでしょう。私が敬愛する哲学者の池田晶子さんはこう書いています。

「ソクラテスは言いました。『人生の目的は魂の世話をすることである』。この世の時空においては絶対的な、老化と、そして死という現象をそれとして認め、受け容れることで、魂はその成熟と風味とを増します」(『死とは何か』毎日新聞出版)

 老化によって本来、魂は成熟するのです。その成熟した魂が他人の害になるはずがありません。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2022年5月27日号

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