古賀茂明氏
古賀茂明氏
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 2001年1月、 政府IT 戦略本部は、 「e―Japan戦略」 を策定し、5年以内に世界最先端のIT 国家になるという目標を掲げた。

【写真】デジタル庁発足式であいさつした石倉洋子デジタル監

 しかし、成果は上がらず、20年に生じたコロナ禍では、国民は日本の「デジタル敗戦」を実感し、自民党政府もそれを認めざるを得なかった。
世界中がDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展を競う中、日本も再チャレンジとばかりに鳴り物入りで「デジタル庁」が創設されたのは21年9月。しかし、早くもこの組織には全く期待できないと思わせる出来事が続いている。 

 まず、デジタル庁事務方トップの石倉洋子デジタル監がもう辞めてしまった。どうしてなのか?

 日経新聞によれば、今年3月末にかけて、10人近くの民間出身者が退職した。また、幹部から「新しい霞が関文化をつくるはずが苦労をかけてしまった」という謝罪文が職員に送られたそうだ。その背景には、「優秀な」官僚が「兼務」という形であらゆる案件に絡み、官僚流の厳格な根回しや報告が求められ、不毛な業務は「ほかの役所と比べても異常な水準」に達したという事情がある。これを私の31年の官僚生活の経験から解説しよう。

 各省庁から出向した官僚は、出身省庁の利権を守るのが仕事だ。そこで、「兼務」という形で、本来の担当以外の情報を取り、いざというときには横やりを入れる。万が一にも親元官庁に迷惑がかからないようにと、重箱の隅をつつくように、お役所仕事で細かいことに注文を付ける。民間人は嫌気がさして当然だ。

 石倉氏は、こうした無駄な仕事をなくすのが仕事だが、官僚の「本能」的な行動を抑えるのは至難の業。牧島かれん大臣にもそんな能力はない。

 さらに深刻なのは、デジタル庁の機能不全が国民の不利益に直結していることだ。その典型が、マイナンバーカードに健康保険証の機能を付けたマイナ保険証をつくって利用すると、初診料、再診料、調剤料の窓口負担がそれぞれ21円、12円、9円高くなるという驚くべき愚策の実施である。

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厚労省の思惑に押し切られた牧島大臣