ウクライナのゼレンスキー大統領(左)とロシアのプーチン大統領
ウクライナのゼレンスキー大統領(左)とロシアのプーチン大統領

 だが、首脳会談を重ねていくうちに、ゼレンスキー大統領は敬意を込めてエルドアン大統領と接するようになった。

「キャリアの長い政治家の先輩としてエルドアン大統領を非常に頼りにするようになったようです」

 親分肌で頼りにされるとその義理堅さが顔を出すエルドアン大統領は、ゼレンスキー大統領と良好な関係を築いていった。ロシアの軍事侵攻直前の今年2月、両国間で自由貿易協定が結ばれた。19年からは兵器の取引も活発化している。いまウクライナ軍が活用している攻撃型ドローンも、多くはトルコから入手したものだ。

 一方、今井さんはエルドアン大統領の気質について、こうも指摘する。

「義理堅い半面、裏切られると関係が非常に悪くなる、という傾向が強いですね。個人的な付き合いのもつれから他国との関係が悪化した例も、いくつか思い当たります」

プーチン大統領との接し方

 その典型的な例が、隣国シリアとの関係だ。

もともとエルドアン大統領とシリアのアサド大統領との関係は「良好だった」と今井さんは言う。

 だが、その後、関係は破綻。きっかけは、民主化要求運動「アラブの春」に端を発したシリア内戦だった。

「エルドアン大統領はアサド大統領との良好な関係に強い自信を持っていました。そのため、11年春に内戦が起こったとき、自分が説得すれば、アサド大統領は戦いをやめるだろうと考えていました。ところが、アサド大統領はそれをはねのけた。とても仲が良かっただけに、エルドアン大統領は非常に憤慨した。それから両国の関係は急激に悪化しました」

 では、ロシアのプーチン大統領との関係はどうだろう?

「トルコにとってロシアは外交面だけでなく、内政、経済についても非常に関係が深い国です。エルドアン大統領のプーチン大統領に対する接し方は、他の首脳に対する以上に、非常に丁重に扱っている感じがします。背景には、以前、両国関係が悪化した際、プーチン大統領との関係改善に苦慮した経験があるからだと考えます」

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プーチンからの圧力の可能性