そして「素敵な人」とは、自分らしく生きている人=自分の価値観をもって活動している人だと川口氏は言います。

「こんな仕事をしていた、こんな肩書だった、だから素敵、というのは現役時代の価値観です。高齢期には、それぞれが自分のモノサシをもって多様な生き方をしたいものです。例えば新聞の俳壇に何度も掲載されているとか、ほとんどの家電を修理できるとか、懐メロに詳しいとか、楽器やプラモデルづくりの腕前がプロ級、あるいは初めての分野にチャレンジし続けているなど、なんでもかまいません。すごいな、立派だなと思える人、何かに一生懸命になっている人が素敵な人といえるでしょう。そういう人の近くにいることが刺激になり、自身の活力となります」

 そんな中にいれば、自分もまた、周囲にとって「素敵な人」になっていけるでしょう。良い影響、良い刺激を相互に与え合いながら、人間関係やコミュニティーが進化していく、そんな環境が本当に住み心地のよい環境と言えるでしょう。

 それぞれがそれぞれの価値観で生き、互いに認め合い、多様性を大事にしてそれぞれの暮らしをリスペクトする。そんな理想的な環境への住み替えは実現可能なのでしょうか。

「まだ少数ですが、今回お話ししたような原則を踏まえた住まいもいくつか出てきています。高齢期の住み替えについて多くの人が前向きに取り組むようになれば、徐々に理想的な住み替え先も増えてくるでしょう」(川口氏)

 いま住んでいる家や環境は、5年後、10年後にも安全、安心、快適に自分らしく住み続けていられるか、一度、新たな目で見直してみませんか。

(文・別所 文)

NPO法人「老いの工学研究所」理事長 川口雅裕(かわぐちまさひろ)

1964年生まれ。京都大学教育学部卒業。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)で人事や広報を担当。組織人事コンサルタント業を経て、2010年から高齢社会に関する調査研究活動を開始し、12年老いの工学研究所設立。会員数1万6000人を擁し、「老い」についてのフィールドワークをおこなっている。著書『年寄りは集まって住め~幸福長寿の新・方程式~』『だから社員が育たない』『実践!看護フレームワーク思考 Basic 20』『なりたい老人になろう~65歳からの楽しい年のとり方』など多数。

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