■スケール大きな選手になる期待

 絶対善、という言葉に関して取材していて、こんな話も耳にした。

「たとえば、プロ入りのとき、結果的に同級生の清原を裏切ることになった桑田や、やはり巨人に入りたくて日ハムの指名を断った菅野などは、いくら選手としてすごいパフォーマンスをしても絶対善として扱われることはないのです。絶対善には、絶対善として扱われるべきサイドストーリーがあるんですよ。

 佐々木は、高3の夏の岩手大会決勝で監督が故障を懸念して登板させずに敗退したことで一層注目されましたが、当時、地元・大船渡に取材に行った記者は苦労したそうです。変なことを言ったら村八分になるとでも思っていたのか、町の人は誰もしゃべらなかったと。普通だったら町の自慢だとしゃべる人が多い場面ですが、本人が東日本大震災の被災者で、家族を失っていて、その心の傷を慮(おもんぱか)ってのことだったのか……佐々木は当時から、そんな、不思議な存在だったそうです」

プロ野球界のレジェンド、長嶋茂雄

 かつて長嶋さんは気心の知れた記者に、こう漏らしたという。

「長嶋茂雄でいることも疲れるんですよ」

 絶対善として扱われ、そう見られることのストレスは、我々が絶対に知り得ないもの。しかし、選ばれし者は、それに耐えなければならない。今回、この取材をしていて、まだ若い佐々木が心配になった。

「メジャーに行って間がない頃、投手として登板していた大谷がジャッジに不満げな態度を取って指導され、以来、そういうことがなくなりました。その辺、メジャーは厳しいですからね。

 今回は100%の悪役となっている白井審判ですが、あの場面、佐々木が若くて才能のある選手だからこそ、今、お灸を据えておかないと、と思ったのかもしれない。

 要は佐々木が今回のことで、大谷のように学習し、成長できるか、です」(前出ベテラン記者)

 最近、「投手としては大谷より上」と評される佐々木。そんな選手としての評価とは別に、今後も絶対善として扱われる人間としてのスケールを身につけられるか、注目していきたい。(渡辺勘郎)

週刊朝日  2022年6月3日号

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