「原発回帰」への急転換は、各地の原発立地自治体や原発建設予定地にも大きな影響を与えそうだ。
山口県上関町では、中国電力が原発建設計画を進めている。計画が浮上したのは、約40年前の1982年のことだ。地元住民の強い抗議行動もあって建設工事は中断したまま。だが、原発回帰政策の影響もあったのか、昨年10月に行われた11年ぶりの町長選でも、推進派の候補が当選した。
「上関原発を建てさせない山口県民連絡会」事務局の安藤公門氏はこんな見方をする。
「個人的な見解ですが、今回の原発回帰というのは、立地自治体を決して逃がさないためのキャンペーンではないかと思います。すでに原発が立地しているところ、上関のように自治体が建設に合意したところ。原発を建設するにしても、新たに地元の合意を得るのは容易なことではない。いま立地自治体に離れられたら、原発政策が成り立たなくなることがわかっているからなのです」
前出の菅直人氏は「原発ゼロ」は実現可能と断言する。再生可能エネルギーはこの10年間で飛躍的に伸びており、総発電量における再生可能エネルギーの比率は2010年度の9.5%から、20年度には19.8%と倍増した。
「政府目標では30年までに再エネ比率を約40%まで引き上げるとしていますが、私は倍の80%も不可能ではないとみています。特に有望なのは、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)。農地でコメや野菜をつくりながら、支柱を立てて上部空間に太陽光パネルを設置して発電します」
現在、日本で耕作ができる農地は約400万ヘクタールだが、半分の200万ヘクタールで営農型太陽光発電を実施すれば、いま日本が使っている1兆kWhの電力を確保することができるという。菅氏が続ける。
「つまり、すべての電力を安価で安全な太陽光で賄える。しかし、経産省や電力会社、原子力ムラは再エネ潰しをやっている。原発にこだわって再エネ中心の社会への転換が遅れれば、却って電力の安定供給に支障をきたすことになります」
岸田首相に、時代に逆行している自覚はない。(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2023年1月27日号