中性子照射脆化によって起きる事故は、壊滅的なものになる。
「想定される最悪の事故は圧力容器が割れてしまうことで、あっという間にメルトダウンが起こります。また、海外と違って日本は地震大国です。自然環境が全然違うのに、海外では運転期限の上限がないから日本も大丈夫という話にはならないはずです」(松久保氏)
想定外の原発事故が起こり得るという現実に直面させられた3・11の後、歴代政権が掲げてきた「原発依存度の低減」を放棄し、岸田首相が「原発回帰」へと舵を切ったのは、昨年7月27日。ロシアのウクライナ侵攻の影響によるエネルギー危機や脱炭素効果を口実に、岸田首相は、GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議で原発政策の見直しを経済産業省資源エネルギー庁などに指示。8月24日には運転期間の延長について年末までに検討するよう求めた。併せて、原発の新増設や、現在の原子炉より安全性が高いと称する「次世代革新炉」の開発・建設にも言及した。
経産省関係者が語る。
「首相秘書官の嶋田隆・元経産事務次官は事故後の東京電力で取締役を務めた経験もあり、強力な原発推進派。国政選挙は当面ないからいまがやり時ということで、経産省が着手したかった政策を嶋田氏を通じてどんどん押し込んでいるのです」
■規制側と推進側 再び距離が接近
原子力の安全を担うはずの原子力規制委は、経産省の動きに呼応するように運転期間の上限を外す法改正に着手した。新たなルールでは、運転開始30年後を起点として設備の劣化状況を審査し、以後10年以内ごとに繰り返していく。60年超に向けた審査内容については今後検討するという。まさに阿吽の呼吸だ。
運転期間延長について規制委が正式に検討を始めたのは10月5日。規制委に経産省の担当者を呼んで状況を聞き、新たな規制の検討を事務局の原子力規制庁に指示したことになっている。だが、実際はそれ以前から規制庁の職員が、経産省側と入念な「事前のすり合わせ」を行っていた。