映画マニアで、もともと映画館が大好きだったというNAOKIさん(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
映画マニアで、もともと映画館が大好きだったというNAOKIさん(撮影/写真映像部・高橋奈緒)

――違いなど答えられるものですか?

素人なりに各劇場の感想を答えました。「一つ目のスクリーンは女性がシャウトしたときにちょっと耳に刺さる感じがあったので、5kHzあたりが強すぎる気がしました」とか「2番目のスクリーンは、セリフの音量が弱いけど、その分ステレオ感は強く感じた」とか。素人のくせに10分くらい一人で話してたかな(笑)、感じたことをそのまま伝えたんですけど、そしたらその雄弁に語る素人の僕の真後ろになんとその音響のチューニングを実際にされた職人の方々もいらっしゃったんですよ(笑)。「それ先に言ってよ!」ってめちゃくちゃアセりましたけど、僕の考察も概ね合っていたようで、むしろエンジニア目線で打ち解けまして、その場でTOHOシネマズの方から「映画館の音響監修をしてもらえませんか?」と依頼されました。まるで抜き打ちオーディションでしょう(笑)。今ではそこにいたみんな、僕の大切なチームメイトです。

■レコーディングの知識と経験を映画音響に生かす

――最初に手掛けたのは、TOHOシネマズ立川立飛。具体的にはどんな作業だったんですか?

映画館のチューニングなんてもちろんやったことないから、まずは音響のプロのみなさんがどんな作業をしているかを把握しながら参加して、そこにレコーディング業界でのノウハウを反映していった感じですね。映画館では複数のスピーカーを同時に使っているので、どうしても音のズレが生じる。音は秒速340メートルなので、各スピーカーと客席の距離が34センチ違えば千分の1秒ズレるんです。これまでの映画館音響のマニュアルでは千分の1秒が最小単位だったんですが、レコーディングエンジニアのシビアな耳で聴いてみると千分の1秒では「まだ全然合っていない」と感じたんです。さらに精度を高めるためには耳で確認するしかないんですが、ここでこれまでのレコーディングの経験が活きましたね。耳という「感覚」だけではなく、音の特性や自然の摂理など、今までに得た音に関する知識が正確な判断の助けになるんです。

実際、耳と音の知識で調整していき、最終的にみんなで誤差10万分の1秒以内まで到達した時は嬉しかったですね。皆さんの映画音響のスキルと僕のレコーディング業界の手法が重なり合って、映画館音響の新しい扉を開けたような気がして、初日から一気に仲良くなりました。それからスキルも徐々に進化して、今では1000万分の1秒以内まで音のズレを抑えてます(笑)。1000万分の1秒って、スピーカーの位置でいうと髪の毛数本分の違いなんだけど、人間の耳はそれを感知できるんです。本当に細かい作業ではあるんですが、音のズレを完全に解消することによって音の淀みを軽減できるのはもちろん、繊細な音から迫力のある低音まで、すべての音を正確に再現できるようになりました。このタイムアライメント(スピーカー同士の音の遅延補正)が完了すれば、あとはイコライザー(音質を周波数別に補正する機器)による調整ですね。

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NAOKI氏が目指す映画館とは