私は、ドキュメンタリーは観た人がそれぞれ解釈することのできる余白があるほど豊かな作品になると考えていますが、これはまさにそう。たとえば、宮部さんが運転する車に同乗するシーン。話に気をとられて高速道路の出口を降りそびれてしまう。数秒のカットですが、人となりが見えてくる。前後編205分は、作り手が「結論」を伝えるものではない。観終わったときに何か話さずにはいられない衝動をもたらすドキュメンタリーだと思っています。(談)
(取材・構成/朝山実)
<注>「全国部落調査」復刻版事件
被差別部落の地名などをまとめた本の出版やネット公開はプライバシー侵害だとして、部落解放同盟と被差別部落出身者約230人が出版社(示現舎=宮部龍彦代表)側を相手取って2016年に東京地裁に提訴。昨年9月の判決で地名リストの大半について「公開は公益目的でないことが明白だ」と違法性を認め、リストを掲載した部分の出版禁止やネットからの削除などを命じた。原告、被告双方が控訴。映画の中で宮部氏は「問題は使い方。(差別用途で)使う企業が悪い」「部落問題は貧困問題」などと語っている。
>>【関連記事】部落問題「当事者」出演の実録映画 35歳の監督「知らない人たちに観てほしい」
※週刊朝日 2022年6月10日号