山上徹也容疑者は事件前日に旧統一教会関連施設に銃弾を撃ち込んだと供述し、現場で弾痕のようなものが見つかった/7月、奈良市
山上徹也容疑者は事件前日に旧統一教会関連施設に銃弾を撃ち込んだと供述し、現場で弾痕のようなものが見つかった/7月、奈良市
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 安倍晋三元首相銃撃事件を機に、旧統一教会が注目されている。かつての信者は「何十人もの人生を変えてしまった」と告白する。AERA 2022年8月1日号の記事から。

【写真】ニューヨークで行われた旧統一教会の国際合同結婚式

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「今も、自分が『献身』(入信)させてしまった何十人もの人たちの顔を鮮明に覚えている。人生を変えてしまったという罪を抱えて生きなければならないと思い、自殺はできなかった」

 宗教法人「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」の脱会者の60代女性は、そう話すと涙をぬぐった。脱会後に「5~6年かかって元の自分に戻り」、大学院で心理学を学びながら脱会者やその家族のサポートを続けてきた。少しでも償いたいという思いからだ。

 女性は大学卒業後、企業に就職。その年の秋、自宅近くの駅で「アンケートに協力してほしい」と声をかけてきたのが旧統一教会の信者だった。

 幼い頃から常に両親がケンカしている家庭で育ち、心のよりどころがなかった。仕事も多忙で心身ともに疲弊していった。次第に「この道こそ唯一の道だ」と妄信するようになったという。

 84年12月、仕事を辞めて、信者が共同生活する「ホーム」に引っ越した。ホームは廃業した旅館や使われなくなった社員寮などで自分の部屋はなく、夜は大部屋で他の信者約30人とともに雑魚寝。昼は信者の獲得や献金集めに奔走した。当時70代の女性に、貯蓄1200万円から980万円を出させて「多宝塔」を買わせたこともあるという。

収入は月1万2千円

 収入は教団から「お小遣い」として渡される月1万2千円だけ。しかも満額支給されず、月6千円しかなかったこともある。

 女性らが集めた献金の多くは、旧統一教会の理想を実現するための「統一運動」に使われていた。具体的には、団体の建物や土地購入、教団の関連会社の運営費のほか、一部は国会議員や政治団体に流れたという。

ニューヨークで行われた旧統一教会の国際合同結婚式/1982年
ニューヨークで行われた旧統一教会の国際合同結婚式/1982年

 この行為は違法ではないのか。憲法20条と89条には「政教分離」の原則が記されている。上越教育大学大学院の塚田穂高准教授(宗教社会学)は、

「国が特定の宗教に結びつくことを禁じているものであり、宗教団体側から政治や選挙に関わることは、現状では憲法違反とは言えない。国の見解として1946年の国会答弁以来、現在まで引き継がれている概念です」

 と指摘。宗教者や宗教団体が自らの理想を基に国家や社会をより良くしようと政治的な活動を行うことは広くあり、それ自体は原則として制限されるべきではないという。塚田准教授は、

「ただし、旧統一教会の場合は、教団を追及や捜査から守ってもらうために政治に近づき続けた面も強い。また、その活動を支えたのは、霊感商法や高額献金などで収奪された資金でした。その社会問題性は顕著で、政治家が『よくあるつきあい』で済ませてよい相手ではなかった」

 と、厳しく批判する。(編集部・古田真梨子)

AERA 2022年8月1日号より抜粋