日向寺康雄さん(写真/本人提供)
日向寺康雄さん(写真/本人提供)

■侵攻直後に訪ねた「古巣」

 1987年、日向寺さんは早稲田大学を卒業後、ソ連国家ラジオ・テレビ委員会外国向けラジオ放送、いわゆる「モスクワ放送」の日本課で働き始めた。ソ連崩壊後はロシア国営ラジオ局として名称を変えた「ロシアの声」に残り、RIAノーボスチ通信の傘下になってからは「ラジオ・スプートニク」に勤めた。

 モスクワ放送は国営のプロバガンダ機関であり、「権力当局」の立場をストレートに、忠実に反映してきた。さらに社会主義の優位性を世界に訴える強力な宣伝マシンでもあった。その後のスプートニクも2016年の米大統領選において、意図的に偽情報を配信して選挙戦を妨害した、とする調査結果を米国家情報長官室は公表している。

モスクワ放送がリスナーに送っていた「ベリカード」/日向寺さん提供
モスクワ放送がリスナーに送っていた「ベリカード」/日向寺さん提供

 しかし、実際のスプートニクは「偽情報」を流す謀略機関のイメージとはかなり異なる、というか、実情を知ると滑稽でさえある。

「スプートニクの代表が強調したのは、より多くの人にウケること、それに尽きました。例えば、プーチン大統領の発言の後に、『空飛ぶ円盤が目撃された』というニュースを平気で入れてしまうのです。言葉は悪いですが儲けしか頭にない視聴率第一主義の、二流のテレビ局のようでした」

 そんなスプートニクの体質を米諜報機関が知らぬはずがない。日ごろからトンデモ情報流していたスプートニクを利用し、「大統領選を偽情報で妨害した」としてロシアを非難した、というのが真実かもしれない。

 しかし、日向寺さんは、儲け主義に傾く代表とは異なる価値観と目標を持った職員がスプートニクに支えてきたのも事実と言う。

 日向寺さんは親の介護で17年夏に帰国し、久しぶりに古巣を訪ねたのは今年2月26日。偶然にもウクライナ侵攻の2日後だった。

「本当にみんなびっくりしていました。まさかロシア軍が国境を越えてウクライナ領内に入るとは思ってもみませんでしたから。せいぜいウクライナ東部、ドンバス地方のドネツク州やルハンスク州にロシア軍を送る、くらいに思っていた。親ロシア派の住民に独立宣言をさせて、彼らの要請に基づいてロシア軍が入る、いつものパターンですよ」

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