アフガニスタンやコーカサス地方の南オセチアでの軍事作戦のように、ロシアはいつも同じ手順を踏んで、侵攻を繰り返してきたからだ。
■放送局内の方針「対立」
今年2月末にモスクワ入りした日向寺さんは、スプートニクで日本課長と面会した。ロシア人の課長は30代の女性で、アニメなど日本文化が大好きな人だった。
「開戦当初から当局の言うことはおかしいと感じていた彼女は、『もう自由に、自分たちが選んだものを報道できなくなるかもしれない。上から下りてきたものをそのまま流せ、という事態になるかもしれない』と言っていました。結局、政府のやり方と、報道の仕方について疑問を持っていた彼女は、その後、放送局を辞めたんです」
課長は当局に都合のよい報道だけでなく、反戦運動など、ウクライナ侵攻に対する疑問の声も報道しようとした。それに反対したのが副課長だった。
「副課長は30代のロシア人男性で空手の愛好家でした。体育会系でプーチン大統領に対してシンパシーもあった。いわゆる『シロビキ』に近かったようです」
ロシアでは治安機関の関係者は「シロビキ」と呼ばれ、プーチン大統領にとっては「身内」のような存在である。
「スプートニクは外国向けのインターネットの報道部門で、上からいろんなニュースが下りてきて、それを選んで報道する。そこで課長と副課長の意見が対立したようです。副課長はロシア軍の戦果とか、自国の兵士たちがどんなに活躍しているか、といったニュースを重視した。彼からすると、ロシア軍はウクライナで虐げられているロシア人のため、正義のために命を懸けて戦っているわけですから。一方、それは本当なのか、懐疑的な見方をしていた課長は、亡くなった兵士や、国内の反戦の動きなどのニュースを流そうとした」
2人の対立が深まると、副課長は強硬手段に打って出た。「うちの課長はロシアの立場について正確に報道しようとしない」と、指導部に訴えたのだ。
その後、課長の女性はスプートニクを去った。