「ただし、課長は解雇されたわけではありません。副課長もまったく違う部署に異動になったそうです。というのも、心の中では課長のやり方のほうが正しいと思っている人がいっぱいいたわけですよ。だから課内の結束が乱れないように、けんか両成敗みたいなかたちで収めた」
■変わらない生活が「支持」に
日向寺さんがウクライナ侵攻後のモスクワに滞在中、スプートニクの放送局の仲間が集まった。そのときに一人が、ウクライナ侵攻について「恥ずかしい」と発言した。
「でも、それは少数派であって、ほとんどの人は『こうなってしまった以上、いまさら何を言っても仕方ない。この運命を受け入れて生き抜いていこう』と言っていました。放送については、当局が必ず流しなさい、と指示されたものを報道する。いまは戦争中だから仕方ないよね、みたいな空気だった。どこの国もそうでしょうけれど、自分たちの国がやったことについて、仕方ないと信じたかった」
では、なぜ、8割もの人々がプーチン大統領を支持しているのか?
「ロシア人にとって何がいちばん大切かというと、治安、そして食べ物と住むところ。寒いですからね。安全で衣食住がなんとかなっている間は、お上の言うことに従いますよ。つまり、わりと単純なものなんです。だからプーチン大統領がやることにみんな黙っている。旧ソ連崩壊後のエリツィン政権時代、生活がめちゃくちゃになってしまったことがみんな骨身に染みていますから」
日向寺さんは、「プーチン大統領がある意味、評価されるのは、国民に不安を与えないように、生活水準を落とさないこと」だと言う。
「いまもモスクワの知り合いとしばしば連絡を取っていますが、私が知るかぎり、経済制裁がこたえている人はほとんどいません。市民の生活は落ち着いています。作戦開始直後と比べても変化がありません。パンや牛乳、肉などの値段は少し上がりましたけれど、それでも欧米のインフレ水準よりも低いくらいです。ルーブルのレートも安定している。自分たちの生活が守られている間は、ロシアの兄弟国であるウクライナの人々が苦しんでいても、そうなったのは『あなたたちが悪い』と、みんな思っている。それはよくないことなのですが……」