話を診療科限定の医学部コースに戻しますが、ほかにも学生のモチベーションに関するメリットがあります。医学部に入学時点で専門とする診療科が決まっていれば、やる気の出る医学生もいるでしょう。

 卒業後に診療科を限定するデメリットは、やはり適性の問題でしょう。最短でいけば医学部は高校卒業直後の18歳で入学できます。この時点で自分が専門とする分野を決めなければならないというのはいささか酷な気がします。例えば”産科枠”で入学したとしても、医学部6年間ではすべての診療科を学ぶわけですし、卒業後の2年間の研修でも各診療科をローテートします。当然、ほかに興味をもつ診療科が出てくるでしょうし、反対に自分が進む診療科が決まっていれば無関係な診療科に全く興味がわかない可能性もあります。医学は複雑であるため、どの診療科に進んでも他の診療科とつながっています。自分が進む診療科さえ知っていれば良いというわけではありません。

 また、ほかのデメリットとしては、同じ大学の医学部内で学力の差がついてしまう危険性です。地域枠や診療科限定枠の場合、将来の選択に制限が出てしまう分、一般的な医学部入学より難易度が下がります。経済的な事情で医学部進学が難しい人以外にも、学力的に医学部に入学できない人たちへの受け皿として使われることもありえます。さらに、人手不足な診療科を医学部入学時点で選ぶわけですから、狙い通り定員がしっかり確保できるかという心配もあります。

 働く病院や地域、診療科は医者にとって重要な内容です。医学生のモチベーション、適性、さらには同じ大学内での学力の格差など問題は残ります。医師の偏在を解消するためにさまざまな制度が試されています。学生時代から縛りをもうける方法はどれだけ効果的であったか、今後検証していく必要があるでしょう。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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