■何をやってもいい
――違うことをやってみたい。そのエネルギーの源にあるものはなにか。そう尋ねると、「自分が楽しみたいということ」「お客さんに楽しんでいただきたいということ」というシンプルな答えが返ってきた。
生田:東日本大震災が起き、被災地を訪れたことでその思いを強くしました。20代の頃は、「俳優は言いたいことは作品を通して伝えればいい」と思っていたところがあったんです。でも、震災が起こり、予定されていた仕事が中止になり、「なんて無力なのか」と感じた。そんなとき、少しでも元気になっていただけたら、と被災された方々に会いに行ったんです。すると、皆さん喜んでくれて。特に映画やドラマは、どんな方が観てくださっているのか、視聴者の顔がわからないところがあるんです。でも、「あの映画が大好きで」と言ってもらえて、「見てくれていたんだな、届いていたんだな」と実感できた。「自分は小さいな」とも感じました。受け取る側がいてくれるからこそ、僕らの仕事が成立しているのだから、相手がどう受け取ろうが別にいい。「作品だけを見て」と敢えて壁を作る必要はないんだ、と感じましたし、僕も少しは社会の役に立てているのかな、とも思えたんです。
――“構えていた自分”から解放された瞬間でもあった。
生田:20代の頃は「自分の立ち位置を確立しなければ」という思いが強かったんです。当時、ジャニーズ事務所には僕のように俳優の仕事をメインにしている人があまりいなかったので、「頑張って、足場を固めなければ」という気持ちもありました。でも、被災地で声を掛けていただいて、「立場なんて考えなくていいのかな」と思えた。では何を大切にするのか。そう考えていって残ったのが、「自分が楽しむことと、みんなが楽しむこと」でした。そのベースをきちんと持っていれば、ジャンルにはこだわらず、何をやってもいいのかなと思っています。
(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2022年6月13日号