――2021年には高校時代からの友人、尾上松也との約束を叶えるべく、歌舞伎の世界に飛び込んだ。その軌跡はNetflixドキュメンタリー「生田斗真 挑む」(6月16日全世界配信)に刻まれている。そこで「新しい興奮を得た」と表現した。

生田:年齢もキャリアも重ね、いろいろなことに慣れてしまい、そんな自分にがっかりする、ということがあります。なんでもそうですよね。初めて自転車に乗れた日はとてもうれしかったのに、乗れるようになると、感動は薄まり単なる移動手段になってしまう。そんななか、「和太鼓ってすごい」「踊りってよく練られている」といった驚きを毎日感じられた。“興奮”を呼び覚まされるような感覚がありました。

――「新しく得たもの」や「自分にはこういう部分もあったのか」という発見もあった。

生田:歌舞伎の世界に身を置いているわけではない俳優が、突然、伝統芸能の世界に飛び込むって、はっきり言って無謀だと思うんです。僕は20代の頃から日本舞踊が好きで、稽古を続けていたのですが、それでも幼い頃から歌舞伎の道を歩んでいる人たちにかなうわけがない。でも、この年齢になって「できないなんて悔しい」という思いを抱きながら稽古を重ねることは、とてもいい時間だったと思います。

自分は日本人なんだ、ということも改めて感じました。普段の僕はハードロックが好きで、ギターの音は歪んでいれば歪んでいるほどいい、と思っているのですが、三味線独特の音と和太鼓、ツケの音、自分が踏み締める舞台の板の音、そしてお客さんの拍手、それらすべてが重なり合ったときに、まるでこうした音は自分のDNAに埋め込まれていたのではないか、と感じるほどの衝撃を受けました。それは、大きな発見でした。

――歌舞伎で学んだことを俳優人生にどう生かしていきたいか。答えからは、真っすぐな人柄が垣間見えた。

生田:そういうことは後々気づいていくものだと思うんです。例えば、トランスジェンダーの女性を演じた映画「彼らが本気で編むときは、」(17年)は、手の動きをしなやかにする必要があり、日舞の稽古の経験が生きた。「これを学んだから、こうやって使おう」という発想ではなく、「実はつながっていた」と後から気づくものだと思います。

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