例えば、夫婦Aと夫婦Bがプチ贅沢な「月30万円」の生活をするとしよう。繰り下げて年金額が増えた夫婦Bは、ほぼ貯金を取り崩すことなくプチ贅沢を楽しめる。一方、夫婦Aは年間100万円近く貯蓄を取り崩さないとプチ贅沢はできない。老後になると、「貯蓄取り崩しを恐怖と思う人が多い」とはよく聞く話だ。夫婦Aは、最初こそ取り崩しをするにしても、すぐに恐怖を感じ、年金額に合わせた生活にダウンサイジングし始めるのではないか。

 この両夫婦の違いこそ、冒頭の近藤さんが言う「生活の質」なのだろう。

週刊朝日 2023年1月27日号より
週刊朝日 2023年1月27日号より

 お金は元気なうちに使うのが「華」だ。70代を元気に動き回れる「老後盛りの10年」とすると、夫婦Bは10年でトータルで3520万円、この先、もっと高齢者が元気になって80代前半も「老後盛り」に加わってくると、15年で5280万円もお金を使える。10年で880万円、15年で1320万円も夫婦Aより可処分所得が多くなるのだ。

 こうした状況が影響しているのか、繰り下げ実践者たちは税金・社会保険料の負担にも寛大だ。冒頭の近藤さんが、

「税金は増えますが、私が納めたお金は回り回って世の中のどこかで人の役に立っています。誰かのためになっているので、無駄な支払いをしているとは思いません」

 と言えば、先の澤木さんも、

「税金は社会全体に還元されていきます。社会保険料も高齢者が多く払えば若い世代の負担がそれだけ軽くてすみます。とられることを『悪』と思うのではなく、支払うことこそ社会貢献をしていると考えたいところです」

 と話す。手取りが増えて「生活の質」が向上する姿がわかると、「損得論」は気にならなくなっているようにも見える。

 さて、皆さんは、「老後盛り」をどのようにお過ごしになるおつもりか。夫婦Bのように、「老後盛り」で生活の質を上げお金の心配をしないで過ごしたいのなら、「繰り下げ」を実行できる方策を考えてみてはどうだろう。

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