小学校時代は、ほぼ毎日塾通いをしていた。なんとなく、中学受験をするのが当たり前と思っていたので、塾が嫌だとは思わなかった。
第一志望の中学には受からずがっかりしたが、「自分の実力なら当然かなと思った」
中学に入り、小学校の時の友達と離れられたのはよかったが、勉強では一気につまづいてしまった。「どんどんわからなくなってしまって、軌道修正できなかった」という。
中高一貫校だったが、中学でも、高校でも、友達はひとりもできなかった。休み時間は、次の授業の準備をしたり、机につっぷして寝ているふりをしてやり過ごした。昼ご飯もひとりで食べた。
「自分のなかではそれが普通だと思っていたし、そのままやっていくしかないと思っていた」
驚くことに、それでも学校を一日も休まなかった。
「どうして? 学校に行くの嫌じゃなかったの?」と聞くと、こう答えた。「病気でもないのに、休むのはおかしいと思ったから」
修学旅行にも参加したという。友人のいない悠さんは自由時間にひとりぼっち。さぼろうとは思わなかったのだろうか。
「行くのが普通だと思ったから。行かないなら、明確な理由がないとダメだと思った」
高校生になると、有名な国立大学を目指して家庭教師について勉強をした。
「小学校のころから、周りの子よりもたくさん勉強してきたというプライドがある。ある程度のレベルの大学じゃないといけない」。しかしいっぽうで、自信はなかった。「自分は頭がいい人間じゃない」
家庭教師は、3年以上同じ人に来てもらっていたという。その人と親しい関係が築けたからだろうか。
「嫌いだった。いつもボロクソ言われていたから」
やめたいと言わなかったのか。
「自分はそういう立場じゃない」
まじめすぎるほどまじめで、自己評価が低かった。他人には理不尽に思えることでも、悠さんは「自分が悪い」「自分のせい」だと思っていた。悠さんは、家庭でも学校でも、自己肯定感を育む機会に恵まれなかったように見えた。
■大学の「学生相談室」に救われたが…
そんな悠さんに、ようやく救いの手が差し伸べられた。
一浪して大学に進学。入学時の健康診断で、「学生相談室」を紹介されたのだ。学生が抱える様々な問題について、サポートしてくれる制度で、カウンセラー(臨床心理士)が心配ごとや困りごとを聞いてくれる。悠さんは週に1回、相談室に通うようになった。
カウンセリングでは、今の状況や、過去の出来事など、親にも言えなかったことを安心して話すことができた。いつも自分を待っていてくれる。そういう場所は、今までなかった。
「相談室がなかったら、大学は4年で卒業できなかったと思う。本当に感謝しています」