介護に伴って家族の在り方そのものが変わってしまいます。その変化を受け入れて、同じような顔ぶれだけれど、いままでとは別の、新たな人間関係をつくる必要があります。それがなければ、介護される側もする側も、気持ちよく介護を実践することができなくなり、一緒に生活することも不可能になります。思い切って家族との関係を構築し直し、家族に迷惑をかけてでも『一緒にここにいることに価値がある』と思えるなら、在宅での介護生活はすばらしいものになるでしょう」(高口氏)

■高齢者ホームでは新しい人間関係の構築がカギ

 高齢者ホームで介護を受ける場合はどうでしょうか。

 在宅で介護を受ける場合と比べて、家族の在り方はそれほど変わらないかもしれません。家族や友人・知人には訪ねてきてくれるときに会うだけなので、これまでの自分、仕事や家庭のことをしっかりやってきた自分に近い状態で接することができるでしょう。つまりそれまでの人間関係はそれほど変化なく続けられる可能性があります。老いていく自分を見せたくない、家族や親しい人の手を借りたくない、介護してもらうのは知らない人のほうがいい、そう割り切れる人には高齢者ホームが魅力的に思えるでしょう。

 しかしホームで介護生活を送るには、新しい人たちと新しい人間関係を築いていく必要があります。周りにいるのは偶然めぐり合わせた介護職という他人です。入居したその日から、裸を見せたり、トイレの世話もしてもらわなければなりません。ゆくゆくは最期を看取ってもらうことになるかもしれない、きわめて深い付き合いになります。いくら介護保険制度を利用して、いわばお金で介護をお願いしている関係であるといっても、お互いを知り合って、看取りを任せてもいいと思えるほどのよい関係を築けなければ、快適な介護生活を続けることはできません。

「ホームでは提供されるサービスの量に目がいきがちですが、それよりも、どれくらいいい人間関係を築けるかが居心地のよさにつながります。人との付き合いを煩わしいと思っていては、気持ちよい生活を実現するのは不可能でしょう」(高口氏)

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