初出場となった東京五輪。飛込競技の男子高飛込で実に21年ぶりの決勝進出を果たすと、決勝でも存分にその力を出し切って7位入賞。当時14歳だった玉井陸斗は、試合後に順位を確認すると、ミックスゾーンで記者たちに見せる大人びた雰囲気とはまた違う、年相応のあどけない笑顔で師事する馬淵崇英コーチとグータッチを交わした。
「自分が今できる限りの演技ができました」
試合後に玉井が語った言葉に嘘偽りはない。苦手な種目でミスがあって得点を大きく下げてしまったが、それも含めて今の自分の実力であると玉井は、14歳とは思えない冷静さで自分を見つめていた。
五輪後も玉井は国内では敵なしの強さを見せつける。五輪後に出場したジュニアの全国大会では五輪で入賞した高飛込だけではなく、3m飛板飛込でも優勝。ここを皮切りに、本格的に飛板飛込にもチャレンジしていくと公言し、その後の日本選手権では優勝こそ逃したものの、3m飛板飛込でも3位表彰台を獲得。もちろん高飛込では2位以下に50ポイント以上の差をつけるずば抜けた実力を見せている。
2022年の2月。現在ハンガリー・ブダペストで行われている第19回FINA世界水泳選手権の代表選考会を兼ねた翼ジャパンダイビングカップに出場。玉井は3m飛板飛込と高飛込の2種目にエントリーした。
その3m飛板飛込では正確無比な演技が持ち味の玉井にしては珍しく大きく入水が乱れるミスをしてしまい、結果4位と代表権を逃す。高飛込では他を寄せ付けない強さで優勝、と言いたいところだったが、現実は大きなミスダイブが1本あり、2位に入った大久保柊(昭和化学工業/東京SC)と競り合う展開になってしまった。
3m飛板飛込と高飛込の両方でミスをしたのが、後ろ向きに入水する技だ。飛込競技は回転して頭から入水するのだが、その入水する際、回転が前回転なら水面を見ながら入水をすることができる。だが、反対に後ろ回転の技だと、背中側から入水することになり、水面を見ることができない。