そのため、後ろ入水と呼ばれるこの技の種目は難易率が高く設定されている。この難易率と演技の得点を掛け合わせてポイントを算出する飛込競技において、高い難易率の種目を成功させれば、リスクは高いがその分高得点を狙えるのだ。

 この翼ジャパンダイビングカップで玉井がミスした種目は、3m飛板飛込では307C(前逆宙返り3回転半抱え型)、高飛込では207B(後ろ宙返り3回転半エビ型)と、どちらも後ろ向きに入水する技だった。玉井自身、この後ろ向きの入水種目に対して苦手意識を持っていることは自覚している。

「特に207Bは苦手意識が強い種目。今回はその不安が結果に出てしまいました」

 実は東京五輪の高飛込決勝でも、大きなミスダイブをしてしまった種目が、この後ろ向きに入水する種目であった(307C 前逆宙返り3回転半抱え型)。ほかの種目では80ポイント、90ポイントを連発する玉井だが、この種目の得点は35.70。半分にも満たない得点しか得られなかったのである。

 特に高飛込という競技は、ひとつのミスで大きく得点と順位を下げてしまう競技だ。入水で水しぶきを立てない“ノースプラッシュ”を決めれば100ポイントの高得点も獲得できるが、一歩間違えば玉井のように30ポイントしか獲得できないということもざらにある。だからこそ、いかに集中力を切らさず、ミスをしない正確性、そして高い完遂度が求められるのだ。

 玉井を教える馬淵コーチは、この正確性、高い完遂度を身につける指導を得意とする。五輪を終えて、あらためて自分に何が必要なのかを理解した玉井は、馬淵コーチの指導の内容をあらためてしっかりと理解したことだろう。2月の翼ジャパンダイビングカップで世界選手権の代表に決定して以降、玉井は東京五輪での決勝と同じ失敗をしないために鍛錬を積み重ねてきた。それこそ苦手な後ろ入水を、不安と、恐怖を振り払うように何度も何度も繰り返し飛んできた。

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「人間的にももっと成長して大人に…」