ボカロPのこんにちは谷田さん名義で発表した「芥の部屋は錆色に沈む」はニコニコ動画において10万再生を記録し殿堂入りを果たした(撮影:張溢文)
ボカロPのこんにちは谷田さん名義で発表した「芥の部屋は錆色に沈む」はニコニコ動画において10万再生を記録し殿堂入りを果たした(撮影:張溢文)

 自由に好きなことをやれる校風のなか、高校生のキタニ少年は独学で楽曲を作りはじめる。ベースも弾きはじめ、少しずつ音楽に傾倒していった。

「機材とソフトがあれば、自分で音楽を作れることがわかってきたんですよね。高校の時はパソコンを持ってなかったから、出来ることは限られてたんですけど。バンドも少しやってました。同じ高校じゃないんですけど、ひとつ上の先輩がやってたPENs+というバンドがあって。高3のときに『大阪でライブやるから、手伝ってくれない?』って言われたんですよ。学校をさぼって行ったんですけど、後日、担任の先生から『何やってた?』と聞かれて、『音楽をやりに大阪まで行ってました』と正直に答えると、『そうか。勉強もがんばれ』で終わり。先生も個性的な人が多かったです。本当にいい高校なので、おすすめですよ(笑)」

■予備校にも通わず東京大学に現役合格

 音楽に熱中しているだけではなく、勉強もコンスタントに続けていたというキタニ。高校と同じく、大学に関しても親に負担をかけないようにするためだ。

「家から通える国公立の大学はいくつかありましたけど、いずれにしても勉強しないと受からないので。予備校にも行けなかったし浪人もできそうになったから、かなりプレッシャーはありましたけど、自分としても大学には行きたかったんですよね。社会に出るまでの時間稼ぎというか。音楽の専門学校に進むという発想はなかったです。ロックキッズだったんで、<音楽は勉強するものじゃない、ハートでやるもんだろう!>と(笑)」

 2014年春、キタニは東京大学文学部(思想文化学科・美学芸術学研究室)に見事合格。ようやくパソコンを入手し、ボーカロイド(楽曲制作ソフト)や機材を揃えてボカロP“こんにちは谷田さん”として活動をスタートさせた。

「講義中も音楽理論のサイトを見て、ずっと勉強してました(笑)。ボカロPの友達や先輩とノウハウを交換することも増えて。リスナーのことを意識するようになったし、曲作りは劇的に向上しました。とにかく“音楽作るの、楽し過ぎる!”という感じでどっぷりハマってましたね」

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東大卒業後も音楽の世界へ