「何の役に立つかわからないからこそ、勉強して楽しいと思う」という(撮影:張溢文)
「何の役に立つかわからないからこそ、勉強して楽しいと思う」という(撮影:張溢文)

ドラマ(『ゴシップ#~』)もそうなんですけど、ひとつの物語のなかにいくつかのメッセージが内包されていて、そのなかの2つを取り出して曲にすることが何度かあって。そのやり方でアルバムを組み立ててみたくなった……、つまり“1つのものを2つの角度から見て作った2曲”を5セット入れてるんですよ。ひとつのものにいろいろな側面があるのは、人間も同じ。僕自身は自分のことを『ハッピーで明るくてお気楽な人間だな』と思ってるんですけど、作品に関しては暗いものが出力されることが多くて。そういうギャップは誰にでもあるんじゃないかなと」

■歌詞には東大の授業の影響も

 独創的な歌詞のセンスも、このアルバムの魅力。そこには高校、大学のときに学んだことも反映されている。

「『夜警』という曲の歌詞に出て来る“アミグダラ”は偏桃体(脳内にある神経細胞の集まり)のことなんですよ。大学の認知心理学の講義で知った言葉なんですが、普通に生きてたらそんなに出合わないですよね(笑)。『タナトフォビア』はニーチェが提唱した“運命愛”という概念がテーマ。それも大学の哲学の授業で聞いて、なんとなく覚えていたんです」

「映画『風立ちぬ』(宮崎駿監督)に<創造的人生の持ち時間は10年だ>というセリフがあって。映画を観たのが高校生のときなので、ちょっと焦ってます(笑)」というキタニ。高校時代から培ってきたクリエイターとしての才能は今後、さらに大きな注目を集めることになりそうだ。最後に、高学歴の人生を歩んできた彼に「学ぶ」ことの意味について聞いてみた。

「何の役に立つかわからないからこそ、勉強して楽しいと思うんですよ。実際、受験勉強も楽しかったし、大学でも趣味と興味の赴くままに講義を取っていたので。実学は仕事を始めてから学べばいいんじゃないかな。僕自身、音楽の作り方は現場でやりながら覚えたので」

(森 朋之)

キタニタツヤ/1996年生まれ。ミュージシャン。東大在学中の2014年頃からネット上に楽曲を公開し始め、ボカロP”こんにちは谷田さん”として活動をスタート。2017年、高い楽曲センスが買われ作家として楽曲提供をしながらソロ活動も行う。2018年にはバンド『sajou no hana』を結成。同年9月にソロAL「I DO(NOT)LOVE YOU.」を発表。ギター、ベース、プログラミングなど、マスタリング以外のすべての作業を一人で完結させた作品で、高い評価を得る。2021年7月クールのノイタミナ枠アニメ「平穏世代の韋駄天達」OPテーマ「聖者の行進」、漫画「BLEACH」20周年&原画展「BLEACH EX.」テーマソング、CX系木曜ドラマ「ゴシップ#彼女が知りたい本当の〇〇」主題歌等、楽曲提供も多数。

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