記者会見の前の晩、ピン子さんが反射的に思ったのは、「子供と女の人を守ってあげなきゃ」ということだった。
「そんなのは男の発想よね。でも、会見でいちばん忘れられないのは、記者の人から『どうして子供を作らなかったんですか?』って質問されたこと。子供は好きだし欲しかったから、病院に通って、いろんなことをやって、何度も挫折して、でもできなかった。『それは言っちゃダメよ』って」
その後、周りからはいろんなアドバイスが押し寄せた。「別居したらいい」という助言には心が揺れたが、今度は森光子さんから、「別居は別れの一歩」と言って止められたという。
「森さんが離婚したときの経緯もお話ししてくださって、最後に、『小夜ちゃん(ピン子さんの本名)、男は裏切るけど仕事は裏切らないよ』とピシャッと締めました(笑)」
記者会見と離婚の危機はなんとか乗り切ったが、自分がダメな女のように思えて、いつになく落ち込んだ。後頭部は、円形脱毛症になった。
「食事も喉を通らないし、寝室で一緒に寝るのも嫌だったから、リビングのソファでずっと毛布をかぶって寝てた。10キロぐらい痩せたかな。私は別にお金に困ってないので、別れてもよかったのに、橋田先生は、『あんたが週刊誌とかで“捨てられた”って書かれるのが嫌だ』って言うわけ。夫婦が別れるときは、男が女を捨てたときに決まってる、それが常識とされる時代だったんです。でも、あるとき市川森一先生と対談したときに、『そうだ、私、子供のいる人と再婚したと思えばいいんだ!』と思ったの。そしたら自分が(夫にとっての)一番じゃなくても腹立たないじゃん、って」
朗読劇の原作を探していて、舞台制作関係者から、「この本でぜひ!」と『すぐ死ぬんだから』を手渡されたとき、「ぜひやりたい!」と感じた半面、もしかしたら、自分たち夫婦の過去を蒸し返されるかもしれないとも思った。
「『どうしても朗読劇にしたい小説があるんだけど』と夫に原作を手渡したら、一気に読んだみたいで、ニコニコしながら『おもしろいね~』って。私の心配も杞憂に終わったんだけど、あんまり過去のトラウマがない夫に拍子抜けして、『あんた、死後離婚だからね』って言っちゃった(笑)。そしたら、『死後離婚でもいいよ、もう僕死んじゃってるから』って……。とことんまで屈託がないんです、ウチの夫」
(菊地陽子、構成/長沢明)
※週刊朝日 2022年7月8日号より抜粋
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