「思い切って家を出ました。少しずつ貯金もしてきたし、まだまだ働けるから、贅沢しなければひとりで暮らしていけるだろうと」
すると、すでに社会人になっていた娘が一緒に家を出ると言いだした。「私はお母さんと暮らしたい」と。
「そのとき、すべてが報われた。私の人生は無駄じゃなかったと泣きました。娘が私に寄り添ってくれるのがうれしかった」
当初は別居しながら婚姻関係を継続させる卒婚のつもりだったが、だんだん気持ちが変わっていった。ひとりになった夫は家政婦を雇ったが、セクハラが過ぎたようで訴えられたと聞き、腹は決まった。
「離婚を申し出たとき、夫に『卒婚なんてきれいな言葉を使って、もともと離婚するつもりだったんだろう』と言われました。でもそうじゃない。一度、距離をとって改めてまた一緒に生活できればいいと思っていた。精神的に夫に自立してほしかったんです。今になって考えれば、私は子供たちとどうやってつながりを強くするかは考えてきたけど、夫とはもともと夫婦としての固い基盤ができていなかったのかもしれません」
2年前に離婚。弁護士を立てて財産分与をし、彼女は今、娘との「ほどよい距離感のある生活」を楽しんでいる。
もうひとり、自ら夫に卒婚を提案したのはMさん(58)だ。
「ひとり娘が大学を卒業して就職し、遠方に勤務となったのが3年前です。そのとき、夫に卒婚を提案しました。このまま夫とふたりきりで老いていくのが耐えられない、自由になりたいという思いが強かった」
30歳で結婚、32歳で出産したが、仕事は続けてきた。3歳年下のサラリーマンの夫は出張が多く、「ひとりで子育てをした」と感じていた。娘が独立したら、ひとりになりたいと漠然と考えていたという。
「卒婚を提案したとき、私は別居を想定していました。ただ、当時、夫は早期退職をして起業したばかり。『このタイミングで卒婚は酷だ』と言われたけど、私はもう家庭より自分の人生を優先させたかった」