──舞台にはフランクリンとアンドレが長い時間を過ごすプールが置かれる。稽古に入る前から時間をかけ、体を絞った。

中山:過去に一度、10キロほど減量しなければいけない作品があり、その時に監督に言われた言葉が印象的でした。「痩せることで作品にどんな影響があるかなんてわからないけれど、それ以外に方法がないでしょ」。それを聞いて、「それはそうだな」と思ったことをよく覚えています。「体をつくること以外に役者ができることって、何かあるの?」と言われたら何もないので、「体をつくった」という情報を一つ提示できるのであれば、取り組む価値があることかな、と。

■二つあって自分保てる

中山:アンドレ役の大場泰正さんとは、セクシュアルなシーンもありますが、「自分はどう思っているか」「相手がどう考えているか」というのは、お互いに明かす必要はないかなと思っています。わからないものは、わからないままぶつかっていい。

LGBTQの方々は世界中にいます。僕らの仕事は、その人たちを軽んじず、しっかりとしたアプローチとリスペクトを持って、表現をすること。そうさせてもらっているという、“形”ではなく、“心”の部分でぶつかっていきたいと思っています。

──舞台を中心に活躍し、多くの演出家と仕事をしてきた。30代が近づき、じっくりと向き合うことになったのが「ダディ」だ。

中山:舞台は止まらないので、それは危険なことでもあり、スリリングなことでもある。だからこそ、本番が一番楽しいと思うときもあれば、一番つらいと思うときもあります。僕にとって、舞台は「もう一つの人生」という感じなんです。役を背負っていないときは、気が抜けて楽しくないなと感じることもありますし、プライベートがあまり充実していないときは、舞台の上で演じることが何よりも楽しいと感じます。自分の人生と舞台の上での人生、二つあるからこそ、自分を保てている、という部分もあると思います。

「ダディ」は、自分にとっては完全に越えなければいけない壁だと思っています。それは、とてもありがたいことでもあります。20代の終わりにこの壁を越えられるか越えられないか、で30代も変わってくるのではないかな、と。

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