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 俳優の中山優馬が、上演中の舞台「ダディ」でアフリカ系アメリカ人のアーティスト、フランクリンを演じている。人種、セクシュアリティー、家族、宗教、格差社会、アイデンティティーなどが複雑に絡み合った作品にどう挑んだのか。AERA2022年7月18-25日合併号から。

【写真】週刊朝日の表紙を飾った中山優馬さん

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──中山優馬が主演を務める舞台「ダディ」が上演中だ。脚本を手掛けたのは、2021年のトニー賞で最多ノミネートを記録した若手劇作家、ジェレミー・O・ハリス。「ダディ」は19年にオフ・ブロードウェイで上演され、今年3月にはロンドンでも上演された話題作だ。

人種、セクシュアリティー、格差、宗教といった複雑なテーマを扱った作品であり、日本初演では小川絵梨子が演出を務める。中山が演じるのは、アフリカ系アメリカ人のアーティスト、フランクリンだ。

中山:初めて自宅で脚本を読んだ時は、宗教要素も強く、難しい脚本だなと感じました。アフリカ系アメリカ人と白人が抱える問題をアジア人が演じるということに、「怖さ」もありましたね。日本人にはなかなか馴染みがないテーマをどうやって伝えていくべきか、という不安もありました。

ジェレミー自身が辿ってきた人生については、もちろん僕も調べました。「ダディ」は彼が10代の頃に書いた脚本なんです。10代特有の若さみたいなところを、僕はそれほど強く感じなかったのですが、稽古(けいこ)に入ってから、自分より年上の役者さんたちの言葉や演出家の小川さんの考えを聞いて、「フランクリンのような若者は世界についてそんな見方をしているんだ」ということがより深くわかるようになりました。一人で脚本を読んでいた頃よりも、ジェレミーを身近に感じることもできるようになった。人種間の抱える問題を、現代的な視点から捉えた作品だと思います。

■稽古前から体を絞った

──脚本には、ジェレミー・O・ハリスが執筆時に聴いていた音楽や、役を演じるにあたり観ておいてほしい絵画のタイトルなども記されていた。

中山:ここまで作家個人の情報を台本に書き込まれる方は珍しいと思います。彼が言及している絵画についても、曲についてももちろん調べました。ジェレミーも、僕が演じるフランクリンも、ともにアートが好きなんですよね。アンドレ(フランクリンと恋愛関係になる初老のアートコレクター)とフランクリンのキャラクターの決定的な違いもまた、アートを通して見えてくる。それは、人種の違いからくるものかもしれないですが、やはりアーティストにはアーティストになる理由があるわけですよね。うまく言葉にすることができず、アートでしか表現することができないものがあるからこそ、アーティストになるのだと思います。その感覚は、自分も俳優という仕事をしているからよくわかります。そういう意味では、フランクリンは天才型のアーティストであり、そこにはジェレミー・O・ハリスの姿が投影されているのだろうな、と感じました。

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