行き過ぎた「官邸主導」で、霞が関は沈黙し、政策立案能力は日増しに低下したといわれる。「官」のフラストレーションはたまる一方で、忸怩(じくじ)たる思いで日々を過ごしてきたに違いない。
岸田政権発足に合わせて披歴された矢野寄稿は、まさに財務省ひいては霞が関官僚の想いを代弁する直截な物言いであり、「政」と「官」の関係修復への期待を込めた願いとも言える。
「働く魅力がない」若手官僚の退職者は激増
こうした実態が、霞が関官僚の士気の低下を生んだ主因となったことは容易に察せられる。
とくに、若手官僚の喪失感は半端ではないようだ。
内閣人事局のまとめによると、自己都合を理由とする20代総合職の退職者は、2013年度には21人だったが、18年度に64人、19年度には86人と、6年間で4倍以上に激増した。
20年度も、NHKの取材で明らかになっただけで、総務省14人、国土交通省8人、厚生労働省6人、文部科学省6人、防衛省2人という。
各省庁とも毎年、総合職で入省する幹部候補生は20~30人程度だけに、難関をくぐり抜けて採用された優秀な人材の流出は「国家的な損失」ともいえる。
また、内閣人事局が19年末に実施した国家公務員の意識調査(回答数:約4万5000人)では、30歳未満の若手職員のうち「3年以内に辞めたい」という意向をもっている人が、男性で7人に1人、女性は10人に1人に上った。
その理由のトップ3は、男性が「もっと自己成長できる魅力的な仕事に就きたい」49%、「収入が少ない」40%、「長時間労働で仕事と家庭の両立が難しい」34%。女性は「長時間労働で仕事と家庭の両立が難しい」47%、「もっと自己成長できる魅力的な仕事に就きたい」44%、「収入が少ない」28%と続いた。
若手職員が「官僚として働く魅力がない」と感じているのであれば、「霞が関の停滞」は「霞が関の衰退」につながっていく。
「ブラック職場」に尻込み…学生の官僚離れが止まらない
官僚の成り手も激減している。
人事院によると、21年度の国家公務員総合職試験の申込者数(春季+秋季)は1万7411人。志望者の減少は5年連続で、前年度から2515人(12.6%)も急減、現行の採用方式となった12年度以降で最低となった。
近年の志望者の減少傾向は加速しており、12年度に比べ3割も落ち込み、ピークの1996年度4万5254人に比べると、実に6割も減っている。当然のことながら、合格の倍率は、96年度の28.6倍から21年度(春季)の7.8倍へと、大幅に下がった。
総合職といえば東大のイメージがあるが、東大出身の合格者数は15年度に459人(26.6%)だったが、21年度(同)には256人(14.0%)と、わずかな期間で半分近くになってしまった。