岸田新政権の狡猾な戦術

 閣僚20人のうち初入閣が13人。「フレッシュ」というよりも「軽量級」という印象が強い。岸田首相が陣取る首相官邸よりも麻生副総裁と甘利幹事長が仕切る自民党が政策決定を主導する「党高官低」型の政権になるのは間違いない。

岸田内閣の閣僚たち(c)朝日新聞社
岸田内閣の閣僚たち(c)朝日新聞社

 岸田首相が所信表明演説で強調した「成長と分配の好循環」は、安倍氏が首相時代に繰り返したフレーズである。「岸田首相は安倍氏に刃向かえず、アベノミクスを否定できない。『新自由主義からの転換』は衆院選の争点をぼかすためのキャッチコピーにすぎず、衆院選後の『分配』は中途半端に終わり、『成長』重視のアベノミクスを継承していくだろう」と財務省OB。岸田首相の「新自由主義からの転換」は看板倒れに終わり、アベノミクスの微調整にとどまるという見方だ。

 岸田首相と総裁選を争った河野太郎氏や高市早苗氏は大胆な規制緩和や投資など新自由主義的な政策を掲げた。河野政権や高市政権が誕生していれば与野党の対立軸は鮮明だった。岸田政権にはオモテとウラがあり、内実を見極めにくい。「安倍支配」を覆い隠して衆院選の争点をぼかす狡猾な戦術といえるだろう。

“首相交代”でも変わらない選挙の争点

 10月19日公示-31日投開票の衆院選は岸田新政権の是非を問うばかりでなく、この4年間の自公政権(安倍政権と菅政権)の実績を問う場でもある。その前提として、岸田首相はアベノミクスを継承するのか、否定するのかをはっきり認定する必要がある。岸田首相は本気で「新自由主義的な政策」を転換させるつもりなのかを見極めなければ投票先を決められない。

 まずは2012年末以降のアベノミクスで日本社会はどう変わったのか、安倍政権前後を比較した東京新聞の特集記事(20年8月31日)のデータをもとに分析してみよう。

 アベノミクスは(1)大胆な金融緩和(2)機動的な財政出動(3)規制緩和による成長戦略ーーの三本の矢を柱とする第二次安倍政権(12年12月発足)の経済政策である。なかでも3本の矢の1つ目である「大胆な金融緩和」は、円安誘導やゼロ金利・マイナス金利政策を大胆に進める「異次元緩和」と呼ばれ、海外輸出で稼ぐ大企業に巨額の利益をもたらし、株価を大幅に上昇させた。

 第二次安倍政権発足直前の12年12月25日の日経平均株価は1万80円だったが、安倍首相が退陣する直前の20年8月28日には倍以上の2万2882円になった(今年9月14日にはバブル崩壊後以降、31年ぶりの高値水準である3万795円に達した)。株式を大量保有する大企業や富裕層は労せずして巨額の利益を手にする一方、株式を持たない貧困層はほとんど恩恵を受けることがなく、「持てる者と持たざる者の格差」は急速に拡大したのである。

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