東京パラリンピックは9月3日、陸上の男子走り高跳び(T64)があり、鈴木徹(41)が出場する。AERA2020年5月18日号のインタビューを紹介する(肩書、年齢は当時)。
* * *
軽やかな助走に続く力強い踏み切り。重力から解放された体が宙を舞う。鈴木徹は世界でただ一人、2メートルの高さを跳べる義足のハイジャンパーだ。助走のスピードを生かした跳躍を武器に、20年間世界トップで戦い続けている。
義足のジャンパーというが、板バネの反発で跳ぶわけではない。義足で踏み切ると体をねじれずに背面跳びができないので、障害のない足で踏み切る。足首が曲がらない義足は速さを維持したままカーブを走るのは難しいし、義足を着く位置や向きが少しずれるだけで、地面の反発を垂直方向へうまく変換できなくなる。
「高跳びはねじりも加わって三次元なので、義足をコントロールするのが特に難しい。義足は正直マイナス要素しかない」
そうした困難を豊富な経験と高い技術で克服。跳躍も年々進化している。今年に入って跳躍のラスト3歩を変えた。これまでは3歩とも同じリズムだったが、休校中の息子たちとハンドボールをして、中・高時代に体に染みついた「タン・タ・タン」のステップを思い出した。
「助走に鋭さが出て、より高く跳べる。若い頃と比べると体力は落ちているけど、技術や工夫でいくらでもカバーできる」
パラリンピックは5大会出場し、4位が最高。義足以外の選手も一緒の種目で戦うためメダル獲得は容易ではないが、
「まだ見たことのない表彰台からの景色を見たい。同時に東京で2メートルを跳びたい。義足でもこれだけ跳べると証明するのは僕にしかできないことだから」
(編集部・深澤友紀)
*
■パラ陸上(走り高跳び)
車いす、義足、視覚障害、知的障害などの選手が出場し、東京パラリンピックでは計168種目を実施する。走り高跳びは男子のみで、義足の選手と人工関節や麻痺など下肢機能障害の選手が同じクラスで競うT63、T64と、腕に障害のあるT47クラスがある。下肢欠損の選手は、陸上で板バネ型のスポーツ義足を使用する選手が多いが、走り高跳びでは生活用の義足を使用する選手や片足で助走し跳ぶ選手もいる。
※AERA2020年5月18日号に掲載