写真家・宮崎学さんの作品展「イマドキの野生動物」が8月24日から東京・恵比寿の東京都写真美術館で開催される。宮崎さんに聞いた。
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長野県南部、南アルプスと中央アルプスに挟まれた伊那谷に拠点をかまえる宮崎さんは、半世紀以上にわたって野生動物を追い続け、ネイチャー写真の新境地を開いてきた。
「よくも悪くも、自然はどんどん変っています。写真家としてその時代性を撮りたい」と、宮崎さんは言う。
今回の写真展はその集大成といえるもので、出だしの写真に写るニホンカモシカは森林破壊を思わせる大規模に伐採された山の斜面で悠然と若木の芽を食べている。
それは人間がつくり出した環境を貪欲に利用しようとする野生動物の姿でもあり、その後の宮崎さんの作品を暗示しているようで、実に興味深い。
■「ごくつぶし」と呼ばれて
宮崎さんがニホンカモシカの撮影を始めたのは1965年ごろだった。
当時、宮崎さんはカメラの交換レンズなどを作る会社に勤めていた。写真雑誌「アサヒカメラ」の月例フォトコンテストにムササビなどの作品を応募して写真の腕を磨いた。
入選を繰り返し、自信がついてくると、撮影がほぼ不可能と言われる動物にどうしても挑戦してみたくなった。それが、絶滅が危惧され、「幻の動物」と呼ばれていたニホンカモシカだった。
目撃情報を丹念に聞き集め、週末になると山に分け入った。そして、ようやくニホンカモシカに出合えたのは本格的に探し始めてから半年後のことだった。
厳冬期の中央アルプス。墨絵のように見える急峻(きゅうしゅん)な雪の斜面をニホンカモシカはゆっくりと歩いていた。
それは小さな黒い点のようだったが、生命の塊が動いているように見え、宮崎さんは猛烈に感動した。そして、「狂ってしまった」。
尋常ではないほど撮影にのめり込んでいった。大雪が降れば会社を休み、山にとんでいった。
<後ろ指さされっぱなしでしたよ、ほんとに。カメラを持って山をほっつきあるいている、ごくつぶし、あんな道楽息子いないと、よくいわれた>(「Anima」90年7月号)
しかし、無理は続かなかった。撮影を始めて3年目、体を壊し、入退院を1年以上繰り返した。会社も退職。地元のガソリンスタンドでアルバイトをしながら撮影を続けた。経済的な壁にぶつかり、生活は「血みどろ」だった。