ニャイコの身を案じた私は、知人の日本人記者らと協力してすぐさま緊急支援物資を送ることにした。だが、郵便物は彼の手元に行くには時間もかかるし、何より現場で郵便システムが機能しているとは思えなかった。そこで選んだのが国際送金だ。
その旨をニャイコに伝え、引き出せる窓口を探してもらった。日本円にして数万円であったが、彼やその家族が飢えを凌ぐには十分な額のはずだった。振り込んだことを伝えると、ニャイコは喜んで最寄りの窓口に向かった。
送金した時間と、現地時間との兼ね合いを見て「そろそろ受け取れただろうか」と思ってニャイコにメッセージを送った。すると予想外の返事があった。
「俺が、窓口からの帰りにお金を全て奪われたと言ったら信じてくれるか?」
流石に意味を飲み込むのにしばらくの時間が必要だった。彼が襲われたのだということが理解できたのだが、さらに冷静に考えてみると、彼は自分が嘘を言っていると思われないか、そのことを気遣ってのメッセージなのだということもわかった。「そんな切ないこというなよ!」。「俺はお前を信じる。何より無事でメッセージをくれたことを喜びたい」。そんなことを一気に伝えた。
するとニャイコは落ち着きを取り戻したのか、金を奪われた様子を説明してくれた。
「お金を引き出して帰ろうと思ったら男たちがつけてきたんだ。それから銃を撃ってきた。金は全部奪われて持っていたスマートフォンも取られた。今も恐怖で震えが止まらないんだ」
衝撃の展開に気持ちもついていかなかった。あと3日分の食料もないというニャイコをなんとかしたいという一心であり、自分が金を送ったことで彼に命の危険を背負わせてしまったのではないか、という後悔のような想いさえ頭をよぎった。それを伝えると、
「ありがとう」
私に向けて、彼が述べたのは感謝の言葉だった。信じるに足りる相手だと思った。できるだけ早く送金するため八方手を尽くし、3日後、別ルートからの再度の送金を行った。ニャイコ曰く、現状は市内の様子は落ち着いているというが、それでも予断は許さない状況は続いている。
何より壊れてしまったコミュニティが再生するのか、崩壊してしまうのか、今のところ誰にもわからない。日本は多くの困難に直面しているし、私たち日本国民も大きな負担を強いられている。一方で、同じようにオリンピック参加国も、それぞれの困難を抱えているのだ。自分たちだけが苦しいわけじゃない。地球全体が大変な状況になっているのだと、オリンピックを終えた今だからこそ、思いを馳せてみてほしい。(丸山ゴンザレス、小神野真弘)