襲撃されたショッピングモール。頑強なフェンスがこじ開けられている(撮影/ニャイコ・マドンセラ)
襲撃されたショッピングモール。頑強なフェンスがこじ開けられている(撮影/ニャイコ・マドンセラ)

 7月19日の早朝、ニャイコが起床するとスマートフォンはメッセージの通知で埋め尽くされていた。友人らでつくるWhat’sApp(LINEのようなメッセンジャーアプリ)のグループで「ヨハネスブルグで暴動が拡大しているらしい」というメッセージが飛び交っていた。どこかいつもと違う雰囲気を察しながらも、近隣のショッピングモールにでかけた。そこで車を修理する予定だったからだ。

 車の修理を開始すると、ほどなくして群衆がモールに押し寄せてきた。

「1000人はいたと思う。とても恐ろしかった。彼らは食べ物や家電を略奪して、ATMを破壊してカネを奪い、火を放った」

 そんな衝撃的な光景よりも、彼はもっと恐ろしいものを目にした。略奪を行う群衆のなかに見知った顔がいたのだ。

「一緒にガイドの仕事をしていた友人がいたんだ。インターネットカフェから嬉々としてパソコンを持ち出してたよ。信じたくなかった。他にも顔見知りの80歳になる老女が、盗んだ米袋をよたよた運びなら逃げていく場面も見た。普段は善良な人だ。略奪は商店やショッピングモールだけじゃなく、もっと拡大していて、近所の住人が知り合いの家に押し入って家財を盗み出すこともある。本当に悲しい」

破壊されたドア(撮影/ニャイコ・マドンセラ)
破壊されたドア(撮影/ニャイコ・マドンセラ)

 ニャイコは非常に心優しく理知的な人物だ。以前からヨハネスの置かれている状況は十分に理解できていた。国際感覚としてヨハネスブルグの治安の悪さが問題になっている認識なども十分に私のような異邦人と共有できていた。そのうえで、今回の略奪では「心が引き裂かれるような痛み」を感じているという。

 実は一般に治安が悪いといわれるヨハネスブルグだが、黒人コミュニティの内部、特に顔を見知った同士が暮らすエリアでは、秩序と規律が保たれている。住民が住民を強盗したり、モノを盗んだりすることなど「考えられない」ことだったのだ。

「住民同士がお互いをよく知っているし、互いに貧しいことを知っている。相互扶助の仕組みが自然発生的に機能する、安全な場所だった。しかし、現在では住民同士が互いに不信感を抱いている。これに私も驚いている。黒人居住区には自分のコミュニティの人間は助ける、という不文律のようなものがあった。それを誇りにすら思っていた。それが壊れかけている。あくまで肌感覚だが、住民の半分は暴動や略奪に参加したのではないか」

 略奪の状況だけではなく、結果としてコミュニティの崩壊に苦しんでいるのだというのだ。

 本来であれば、これで今後の推移を見守りたいと結んで終わるところだが、これで話は終わらなかった。

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