「ビッグガイ、俺の国で何が起きているのか見ているか?」
【写真】襲撃されたショッピングモール。頑強なフェンスがこじ開けられている
フェイスブック経由でそんなメッセージが届いたのは、オリンピックの開幕を直前に控えた時期のこと。メッセージの送り主は南アフリカの友人ニャイコ・マドンセラ。ビッグガイは他ならぬ私、丸山ゴンザレスのことである。
ニャイコは南ア最大の都市ヨハネスブルグの黒人居住区「ソウェト」に暮らしている。貧しい者が多く、一部では犯罪者が跋扈し、スラム同然の暮らしが見られる地域だ。彼とは現地取材で世話になり、その後も時折連絡を取り合っていた。
冒頭のメッセージを受け取った瞬間、彼が何を言いたいのか察しがついた。7月15日ごろからズマ前大統領が拘束されたことに抗議するデモ隊の一部が暴徒化し、無関係の商店を略奪しているというニュースを見ていたからだ。とはいえ、デモから暴動や略奪が発生するケースは南アでは珍しくなく、今回の一件もその類型と分析していた。
しかし、実際に暴動の現場を目撃したというニャイコの話を聞くほど、今回の暴動が「異質」なものであると思い至った。その経緯を報告する。
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7月中旬にクワズールー・ナタール州で発生した暴動は、ヨハネスブルグにも波及し、AFP通信によると22日時点で215名がなくなり、政府の発表によると、国全体の損失額は推定500億ランド(約3760億円)に上るという。
これまでに南アフリカの惨状を報じる国際ニュースは、ズマ前大統領の逮捕への反対運動が引き金となり、コロナ禍やそれまでの政治の汚職などで社会に対してつのっていた貧困層のフラストレーションが爆発した結果であると解説している。
しかし、まさしくそうした貧しい人々が多い地域に暮らすニャイコが語るには、「この報じ方では、自分たちが直面している無力感はきっと理解されない」のだという。
「確かにフラストレーションはあった。南アの政治の腐敗はひどい。でも、それ以前の単純な事実として、私たちは飢えていた。コロナ禍のロックダウンで商店はビジネスができなくなり、バスやタクシーの運転手も大勢食い扶持を失った。そしてそうしたビジネスに従事するのは黒人だ。暴動は鎮圧されるのかもしれない、でも黒人コミュニティに刻まれた亀裂はどうなるのか。この先、何が起きるのか、まったくわからない」
彼が直面した危機感は、私たち日本人には理解のしづらいものだ。彼が暴動を目の当たりにした初日から、より詳しくその体験を振り返り、解説する。