ただ、たとえ同じ境遇で育ったとしても、それぞれの子供たちが持つ感性や過ごした時代背景、子供同士の関係性によって、人の個性や性格というものは多少なりとも変わってくるものだろう。大谷家の場合、龍太さんには実直で優しさに満ちた、まさに長男という感じで、長女の結香さんには朗らかで寛容な印象を受ける。そして、兄と姉を持つ三番目には、やはり末っ子気質がしっかりと染みついているのだ。
ある日、両親が姉の結香さんに買ってあげた自転車を、翔平がこっそりと一人で持ち出したことがあったという。
「娘とは歳が二つ違い。何を買うにも同じようなペースで二人に買ってあげるんですけど、先に姉に買ってあげた自転車を運動神経がよかった翔平がこっそりと乗ってしまったことがありました。そうしたら、どこかで倒してしまったのか買ったばかりの自転車のカゴを壊して帰ってきたことがあったんですね。姉はカッとして怒る性格でもないので『翔平、壊しちゃった』みたいな感じで言うんですけど、壊した本人も悪びれることなく、そのときはしれっとしていましたね」
■末っ子ゆえに「いい子ちゃん」になっていたか
加代子さんはさらにこう続ける。
「翔平は末っ子ということで、家の中ではわりと甘えん坊だったと思います。学年で七つ上のお兄ちゃんが可愛がってくれて、みんなで大事に見守る感じで。ただ、もともと動き回ることが好きな子だったので外では活発。人前では涙を見せないような強いところもありましたね。あとは、やっぱり下の子なので要領がいいというか、たとえばお姉ちゃんが怒られている姿を見ると、翔平はその怒られたことをやらなかったりするんです。周りを見て何かを感じ取ることが上手だったので、あまり怒られるようなことはしなかったのかなあと思いますね」
ただ、周囲の言動を気にするあまりに「どこかで自分の気持ちを我慢していた部分があったかもしれない」と加代子さんは少しだけ気にするのだ。無邪気で自由奔放な、いわゆる「子供らしさ」を末っ子という立場ゆえに自然と失っていたのではないか、と。
「上の子の姿を見ている翔平は、こんなことをやったり言ったりすれば、親は困るんだな、嫌なんだなというのを何となく感じて、言い方は悪いですけど『いい子ちゃん』になっていた部分があったかもしれません。大人の顔色を見て我慢していたところがあったかもしれない。もっと自由に言ったり、やりたかったことがあったかもしれないのに」