■オンオフの切り替えはしっかりしていた

 一般的に、末っ子は自由で活発なイメージがある。ただ裏を返せば、慎重さや我慢強さを備えてしまうのも末っ子の特質と言えるかもしれない。自由さに偏り過ぎれば、物事の考え方が大きく偏る場合がある。自由奔放に振る舞えば、それが個性となるのかもしれないが、見方によれば自己中心的で歪な思考や行動に見えてしまうことがある。一方で、我慢だけの思考に陥ってしまっても、その人の感情が見えにくく、どこか閉鎖的な人間にとらえられてしまう場合がある。

 自分の意思で決断し、自由な発想で行動する力。一方で、周囲の行動を冷静に判断する力や、我慢という要素をプラスに転化したときに生まれる強さを秘めた耐える力。それらすべてを持ち合わせたとき、人はどんな成長曲線を描くのか。末っ子が持つそれぞれの特性をバランスよく兼ね備えている大谷翔平の歩みにこそ、その答えは詰まっているように僕は思うのだ。

 加代子さんのこんな言葉からも、翔平のバランス感覚の才を窺い知ることができる。

「スイッチが入ったら集中して一気にやるところもあるんですけど、(スイッチが)オフのときは本当にオフ。小、中学校時代の野球でも、試合開始になればもちろん集中してやるんですけど、休憩時間になれば誰よりも楽しそうに遊んでいました。そこは本当に子供らしく。ホースがあれば水かけをしたり、ボールとバットでゴルフをやったり」

■プロに入ってからも最初は服装や髪型に無頓着

 それだけに、加代子さんはこう結論付けるのだ。

「大人っぽいところと子供っぽいところがある。それが翔平なんですよね」

 それがすべての「原点としてあるのかな」と母は言う。

 翔平の本質ともいうべき要素に加えて、「基本的に何事もあまり気にしない性格」が少しずつ顔を覗かせていったのは、幼少期から思春期にかけてのときだ。それは一見、周囲の目を気にして行動する末っ子気質と相反するものだが、自由さにも似た、何事にも動じずに意思を貫いて自分の世界観を持つ、もう一つの末っ子気質である。その性格が徐々に上回っていったのだ。

「無頓着な性格です」

 母はそう言い、「プロに入ってからも、最初は服装や髪型にしても気にしている様子がなかったですよね」と言葉を足す。

 自分が「これだ」と思うことに対しては一心不乱に気持ちを込める。スイッチのオンとオフをうまく使い分けながら。ただ、感性に触れないものに関しては、どことなく他人事。

 無頓着さが表れてしまう。子供の頃からそうだったという。

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