東京五輪もいよいよ大詰め。今大会では日本柔道チームが五輪史上最多の9個の金メダルを獲得するなど、目覚ましい活躍を見せた。
そんな後輩たちの活躍を、熊本県八代市内の銭湯の従業員として、テレビ越しに見守る金メダリストがいた。男子柔道66キロ級で、2004年のアテネ・08年の北京と2連覇を果たした内柴正人氏(43)だ。
内柴氏は現在、銭湯「つる乃湯 八代店」に勤務。“あの事件”を機に柔道界を遠ざかり、栄光と挫折を知ったアスリートは、新たな人生をどう歩み、後輩たちの活躍をどう見たのだろうか。
「日本開催で金ラッシュは嬉しいです。凄いとしか言いようがない」
後輩たちの活躍について、内柴氏は嬉しそうに感想を語る。「皆が五輪を見れるように」と、自宅にあったテレビを銭湯の休憩スペースに設置した。ディスタンスを保ちつつ、常連客やスタッフらと観戦することもある。
「これだけ多くの階級で金メダルを取れるというのは、歴史的にもないこと。個々の強さもありますが、一人一人の力を引き出すチームジャパンの監督も見事ですし、チームの雰囲気も良かったのだと思います」
当初は五輪観戦に対して、心に壁のようなものがあったという。職場の上司からも、「いろいろなことがあったし、お前は大会を見るのも嫌だろう」と気遣われた。
「どうしても、『戦いたい』と思ってしまうんです。引退した選手は誰もが思うことかもしれませんが、普通は引退したら、指導者をやりながら大人になっていきます。僕は指導者としての時間がとても短く終わってしまったので、まだ子供のまま。五輪の舞台はもう僕が入れない世界ですから、モヤモヤをコーチとして選手に託すこともできない」
2連覇の功績が認められ、内柴氏は紫綬褒章を2度受勲するなど、数々の栄誉に輝いた。だが2011年、教え子だった女子柔道部員への準強姦容疑で警視庁に逮捕され、事態は一変。「合意の上」として裁判で争ったが、14年には最高裁で上告が棄却され、懲役5年の実刑判決を受けた。この件によって数々の栄誉賞ははく奪され、五輪2連覇の男の名声は地に落ちた。内柴氏は過去を振り返り、後悔をにじませる。
「反省するべき点ばかりです。自分が起こしたことの悪い部分は反省して、裁判で結果が出た以上は、最後までまっとうしようと。実家の父や家族についても、しつこくカメラに追い回されて憔悴していましたし、たくさん心配をかけたと思います」