「ご近所からも、お母さんについて心配の声が上がっていまして……」
その後、Aさんが久しぶりに母宅を訪ねると、家の中やベランダにゴミが散乱している。「ゴミ出しの日が違う」と居住者から注意されたことを恐怖に感じ、ゴミを出せずに自宅にため込んでいたという。母が高齢者施設に移ったのは、その2カ月後のことだった。
「集合住宅であるマンションは、いわば一つの社会。そこでのマナーやルールを守れなくなったときは、マンションでの在宅介護の一つの限界点と言えるかもしれません」
ケアマネジャー歴21年の牧野雅美さん(アースサポート)は、こう話す。国土交通省の調査によれば、全国のマンション戸数は675万戸超(2020年末時点)。居住人口は約1573万人と、国民の8人に1人がマンション住まいという計算だ。特に都市部で暮らす人には、一戸建てよりマンション派が増え、「住まい=マンション」という感覚が一般的になりつつある。
■オートロックや同じ玄関で混乱
今、表面化し始めている問題の一つが、マンションの住民の高齢化だ。築40~50年の高経年マンションでは、入居時に子育て世代だった人々が高齢期を迎えている。前出の国交省の調査によれば、全国の分譲マンションの世帯主は、60歳代が27%と最も多く、次いで50歳代が24.3%、70歳代が19.3%と続く。さらに建物の完成年次が古いマンションほど70歳代以上の割合が高く、1979年以前に完成した築43年以上のマンションでは、世帯主が70歳代以上の割合が47.2%にも上る。こうして住民の高齢化が進んだマンションでは、管理組合の活動や運営が思うようにできなくなることから、建物の老朽化が進む事態も起こり始めている。
先の例のように、マンションという集合住宅であるがゆえに起こりやすい、住人の高齢化によるトラブルも発生している。
「番号キーを暗記するオートロックや、同じ玄関ドアが並ぶ光景など、高齢者にとって、時にマンションは住みづらい空間にもなりうる」