撮影:安掛正仁
撮影:安掛正仁
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 写真家・安掛正仁さんの作品展「朧眼風土記」が7月20日から東京・新宿のニコンプラザ東京 ニコンサロンで開催される。安掛さんに聞いた。

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「朧眼風土記(ろうがんふどき)」というタイトルは、写真を撮るときの朧(おぼろ)な視線を意識しているという。

「スナップ写真を撮るときって、細部までは見ていなくて、画面全体の大まかな雰囲気を感じて写していると思いますから。『風土記』は、こじつけですけれど、これまで生きてきた自分の中の風土みたいなもの」

 作品の舞台は廃村が点在する山のなか。化け物や妖怪がぬっと現れそうな、怪しいムードに包まれた世界。薄ぼんやりとした画面にときどき子どもの姿が現れるのだが、人間が住む世界とは違う「異界」に入り込んでしまったような雰囲気を感じる。

「これは子どものころの記憶を写真を借りて表したもの。まあ、そういう子どものころからのイメージから離れられないんでしょうね。好きなものとか、見たいものって」

 1969(昭和44)年生まれの安掛さん。いったい、どんな子ども時代を過ごしたのか聞くと、筆者も「ああ、そういえば」。70年代の懐かしい思い出がよみがえってきた。

撮影:安掛正仁
撮影:安掛正仁

■謎めいたロマンにあふれた時代

 あのころ、日本では空前のオカルトブームが巻き起こっていた。

 子どもたちの間では心霊写真や超能力、UFOの話題はド定番。小学校の休み時間には怪奇本を読み合い、写真を見ては、「あっ、木の幹に人の顔が写っている!」と言って大騒ぎした。みんなで競って給食用のスプーンを念力で曲げようとした。放課後は輪になって「ベントラ、ベントラ、スペースピープル」と唱えながらUFOを呼んだ。好奇心と想像力が刺激された、おどろおどろしくもロマンにあふれた時代だった。

 そんな時代に、安掛さんがタイムスリップしたような気分になったのは10年ほど前、台湾を訪れたときだった。

「それ以降、写真がまったく変わった。それまではずっと新宿でストリートスナップを撮っていたんです。でも、1~2枚しか撮らないで帰ってくるときが多かった」

 ところが「台湾に行ったら、8000枚くらい撮れたんです。1週間で。なんでこんなに撮れるんだろう、と思ったら、小学生のころに見た風景や空気感が路地に残っていた。子ども時代を追体験するように撮影した。それをきっかけに『蛞蝓(なめくじ)草紙』というシリーズを撮り始めて、いまの作品に続いている」

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異界を探し求めて歩く