徳永さんの話を聞いて強く感じたのは、空撮は単に被写体となる機体を写す作業ではまったくなく、それを操縦するパイロットたちとの共同作業ということだ。
航空自衛隊で最後までF-4を運用してきたテストパイロットの部隊、飛行開発実験団(岐阜基地)では「お互いにいろいろなアイデアを出しながら作業しました。それがすごく面白かった」。
■どこで見切りをつけるか
空の上では撮影時間が限られている。そのため、飛ぶ前にさまざまなシーンを連続して効率よく写すためのプログラムを組み、綿密な打ち合わせを行うことが重要となる。
「例えば、2機編隊で、それが左右にブレークするマニューバー(機動)を写した写真がありますけれど、それをパイロットに見せて『こんなふうに撮りたい』と言っても、そうは写らない。きれいな角度で見えるように写すには、どの速度域で、どのくらいのG(加速度)で操縦かんを引くとか、あらかじめ決めておかないとダメなんです」
このブレークの場合、「やり直しになると、もう1回、ジョインアップ(集合)しなければならない。すごく時間がかかるし、ほかの撮影の可能性をつぶしていくことになる。とにかく、上ではセットアップをしっかりとやって、きちんとしたポジションにいるか、準備ができているかを完全に確認してから動く。そうしないと、結局、やり直しになっちゃう」。
やり直し、と言っても、ふつうの撮影とはわけが違う。「当然、燃料には限りがありますからね」。定められた飛行空域の縁も迫ってくる。
「うまく撮れなかったら、次のカットに行くんじゃなくて、基本的にそれが終わるまで、つぶします」
とは言うものの、そのカットだけに集中して撮れたとしても作品全体としてはまとまらない。
「経験則みたいなところがありますが、最終的にその撮影がどこまでいけるかを考えて、どこで見切りをつけるか、ですね」
■トップガンパイロットによる解説
ちなみに本書は写真だけでなく、解説文も非常に興味深い。これは、元F-4パイロット、リチャード・パロウスキーによるもの。
「パロウスキーとはかなり長い付き合いで、彼は実際にベトナムでF-4に乗っていたんです。トップガン(エリートパイロット養成学校)にも3回入っている。その後、ソ連機を分析するアナリストとして各国で教えていた。最終的にはアメリカ議会の下院軍事委員会のスタッフになった。そういう面では、ふつうの航空解説者とは違う、ほんとうに生の情報を持っている」
これまでに出版されたF-4の本は山のようにあるが、それとは違うものをつくろうと、数年前から内容を練ってきた。
「苦労しましたけれど、これまでとは違うものにはなったと思います。言っちゃいけないかな、という情報もけっこう書きました(笑)」
(文=アサヒカメラ・米倉昭仁)