教員が一方的に教えるのではなく、子ども自身で何をどう学ぶか決める。そんな教育への転換が始まっている。AERA 2021年6月21日号は「義務教育」特集。実践する学校や教員らを取材した。
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机に向かってひらがなの練習をする1年生のすぐ横で、3年生が漢字の書き取りに取り組んでいる。少し離れた場所では床に座り、長椅子を机代わりにして算数のドリルに向かう2年生。廊下に出て勉強する子どももいる。上級生が下級生に解き方のヒントを教えたり、みんなで一緒に考えたり。グループリーダーと呼ばれる担任が「2年生、引き算の筆算を説明するよ!」と声をかけると、何人かの児童が周りに集まった。長野県佐久穂町にある私立の大日向(おおひなた)小学校ではこんな光景が日常だ。
教科横断的な学びの時間もある。「自然と共に生きる」をテーマにした授業では、車座になった10人ほどが森の中での過ごし方を話し合っていた。「何かをつくりたい」という案に「秘密基地!」と賛同する声。その横では、別のグループが図鑑をめくり、植物について調べている。同じテーマで地域の人にインタビューする日もあるという。
■初のイエナプラン認定
桑原昌之校長は言う。
「子ども自身の好奇心や『やってみたい』を大切にしています。自立すること、共に生きること、世界に目を向けることが教育の目標です」
2019年に開校した大日向小学校は学校教育法第1条で定められた、いわゆる「1条校」だ。だが、その日常は一般にイメージされる小学校とは大きく異なる。元になっているのが、ドイツで生まれ、オランダで広まったオルタナティブ教育「イエナプラン」だ。同校は、日本イエナプラン教育協会が認める日本初のイエナプランスクール認定校でもある。
イエナプラン教育では、「人とはどんな存在か」「どういった学校や社会でありたいか」を示した「20の原則」を基に学校が運営される。違いを認め、一人ひとりを個として尊重すること、協働しながら学びを深め、自由と責任ある共同体を目指すことが基本理念だという。