撮影:陳翔
撮影:陳翔
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 写真家・陳翔さんの作品展「永いさよなら-長崎の夏-」が6月8日から東京・新宿のニコンプラザ東京 ニコンサロンで開催される。陳さんに聞いた。

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*  *  *

「あの、さだまさしの歌はご存じですか?」

 私が陳さんに長崎の精霊流しについて聞くと、逆にこうたずねられた。

 さだまさしの「精霊流し」は、亡き恋人の精霊船を流す前の切ない気持ちをしみじみと歌い上げる名曲だ。

「ええ、もちろん、何回聞いたかわからないくらいですよ」

 そう答えたのだが、恥ずかしながら、私は実際の精霊流しがどんなものであるか、まったく知らなかった。

「あの歌とは真逆な感じで、ものすごくうるさいんですよ。爆竹、バンバン。箱ごと火をつけて、街中で投げるんです。そのなかをみんなで掛け声をかけながら、ちょうちんで飾った船(車輪付きの山車のようなもの)を引っ張って、パレードみたいに練り歩く」

「ええっ、そうなんですか!」

■精霊流しと原爆

「あの歌を想像して長崎に来たら、ダメです。死にそうになります。精霊流しの時期が近づいてくると、商店街のドラッグストアはみんな、耳栓を売るんです。それくらいうるさい。長崎市民の一大イベントですね」

 写真展案内の文章の冒頭に「長崎の8月は賑やかだ」とあるが、それはそういう意味だったのだ。

撮影:陳翔
撮影:陳翔

 作品は毎年8月15日に行われる「精霊流し」を柱に、「長崎原爆の日」(同9日)の祈りの風景などを盛り込んでいる。

「この作品は、ヒヨシの学校に3年間通っている間、夏休みとかに長崎に行って制作した、という感じです」

「ヒヨシの学校」というのは、横浜市の日吉地区にある東京綜合写真専門学校のこと。

 東京から遠く離れた長崎を撮ろうと思ったのは、大学時代の留学体験がきっかけという。

 台湾出身の陳さんは台湾大学4年生のとき、交換留学生として2013年から1年間、長崎大学で学んだ。

「都市計画のゼミに入って、長崎の町の歴史や観光をメインに勉強した。そのときは東日本大震災の2年後で、原発稼働率がゼロだったんですよ。原発の必要性を問うとか、原爆の話とかで、けっこう盛り上がりました」

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留学時代の思い出