写真家・渡辺幹夫さんの作品展「フクシマ無窮-時は止まりて、流れる-」が6月8日から東京・新宿のニコンプラザ東京 THE GALLERYで開催される。渡辺さんに聞いた。
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福島第一原発事故による帰宅困難区域とその周辺では、目に見えやすい復興の「光」の部分が強まるほど、「影」の部分との矛盾が浮き彫りになってきたと、渡辺さんは繰り返し訴える。
「復興、復興といわれているわりには、あまり血が通ってないな、というか。もう、ほんとに矛盾だらけなんですよ。そこからひずみが生じていると、非常に感じる」
そう言うと、ひと呼吸おき、「切ないなあ」とつぶやく。
「現実を見ると、福島の切実感というかな、そういうのを、もっともっと世の中の人に知ってもらいたいとつくづく思うんです。でないと、忘れ去られてしまう。発信し続けていかないと、『もう、いいんじゃない』と、なってしまう」
展示作品は震災の年に撮影したものもあるが、多くは2015年以降に写した写真である。
それについて渡辺さんは「ぼくはいちばん初めのころに行かなかったのがよかったのかもしれない」と言う。
「撮影に取り組み始めたのは被災地を撮り出す人が消えつつあったころ。一つ、時間がズレた、というか、落ち着いてきたころだったので、冷静に現場を見ることができた。そこで幸運にもいろいろな人と巡り合えたので、多角的に取材することができた」
■行かないとわからないこと
震災当時、渡辺さんは朝日新聞東京本社報道局で写真部長を務めていた。報道機関に籍を置くとはいえ、管理職なので、特別な事情がないかぎり取材に行くことはない。
そんなわけで、渡辺さんが自らの足で被災地を訪れたのは少し後のことだった。
「福島に初めて行ったのは2011年5月28日。相馬ですね」
福島支局で新人研修をしていた写真部員が福岡に異動することになり、会いに福島市を訪ねた。